Epilogue-4
◇◇◇
5年前には、村だった場所。
5年前には、寂れていた場所。
その面影は今やどこにもなく、村は町に変わり、城下町とを行き来する旅人によって毎日賑わいを見せていた。
ここに、その往来を歩く者が1人。彼女は手に2通の手紙を持っていた。
???「…ほんと、真面目で丁寧なのはいつになっても変わらないんだ」
後から到着した方の手紙を見つめ、彼女は遠い目をして昔を思い返した。
ただ1人、わたしに「普通」に接してくれた人。彼がいたから、わたしは辛い子供時代を乗り越えられたんだと今でも思う。
『私も34歳になり…、』という一文を見ると、彼の苦笑いが聞こえてきそうな見えそうな。ラダトームからの手紙とほとんど同じ内容が記された手紙には、しかし幼い頃からついて回った彼の温かさがあった。
『レーベもずいぶんと発展したと聞きます。それは、身の安全が徐々になくなることも意味します。会で、元気なユリスと会えることを心待ちにしています』
ユリス「…キットってば、わたしにこんなに長い手紙を書く時間があるなら、ちゃんと寝て体を休めてよね」
口ではついそんなことを呟いてしまうが、本心を言えばただ嬉しい。手紙の終わりにあったこの文章には、嘘も偽りもない。明後日となった再会の日を待ち望みながら、ユリスは今日も町の安全を守る務めを果たすべく、往来の中を歩き回る。
◇◇◇
手紙を最初に見た時、ほんの少し救われたと思ってしまった。
5年前、再び村に戻った時には、当たり前のように家は他人のものになっていた。家にはほとんど何も置いていなかったので、特にどうということはない。ないのだが―――自分自身はおろか、存在すらも村人たちから否定されてしまったという事実には、少しばかり胸を締め付けられた。
2つの色を持つその眼を、かつて彼女は隠しながら生きていた。だがもうそんなことはしない。この眼だって、私という人間を作る要素、すなわち個性の1つなのだから。
いつか仲間に言われた言葉。『リズのその眼、ぼくはかっこいいと思うけどなぁ』『リズの眼が普通だったら、わたしはリズと一緒にいなかったかもしれないわ』―――数え切れないほどの声が頭の中を駆け巡る。5年経った今も、それはリズの心の拠り所となり、彼女を支えている。
リズ「何が違ったんだろう…」
少しは緩和されたとはいえ、やはり周りの反応はどことなくぎこちない。対して、あの仲間たちは全く気兼ねなく接してくれた。
*「わわっ、モンスターだ!!」
前を歩く商人が、怯えた声を上げる。リズはすぐさまその前に出て、モンスターが動きをとる前にそれを切り刻んだ。
*「ありがとう。やはり君に護衛について貰って正解だったよ」
わざわざ私を選ぶなんて、ほんと変わった人。
そんなことを思っていたリズは、また1つの言葉を思い出した。
『結局、世界中にいる全ての人間が変わり者なのだ。ここにいる皆は、それを無意識に理解しているのだろう』
そして、自身をそうだと認められない者が、他を貶め、傷つける。
そんな結論を導き出したリズは、何をも言わず歩き出す商人に従った。
傭兵の仕事について3年。私を護衛に選ぶ者は決して少なくはなかった。彼らはみんな、「変わり者」。
リズ(そう分かっただけでも、私が生きる意味になる)
すっかり踏みならされた街道を、一陣の風が吹き抜けた。