Epilogue-3
◇◇◇
*「こらぁっ!!」
響き渡る怒号に、思わず2人は耳を塞ぐ。
*「ルージャ、ノイル!あんたたちには何回聞かせりゃわかるんだい!東の洞窟に行っちゃいけないって、あれほど言ってるじゃないか!!」
2人はビクッとして、怒り心頭である女性を見た。
ルージャ「でっ、でもさ!ボクたち、そこらの魔物には負けないし…」
ノイル「そうだよ!おばさんだって分かってくれてるでしょ!?」
*「おだまりっ!それとこれとは話が別なんだよっ!」
物凄い剣幕でまくし立てる女性に、2人はすっかり萎縮してしまう。
*「まったく、あんたたちはいつになったら大人しくなるんだい!いい加減14にもなるんだから、いつまでも子供みたいなことやってるんじゃないよ!」
相当怒っているらしいが、その裏には相応の心配があったことは容易に見て取れる。が、子供の立場からだとそれはすっかり隠蔽されてしまい。
自分たちが今日洞窟に向かった理由も知らずに怒鳴るおばさんに、そろそろうんざりしてきた2人であった。
???「見てたぜー、お前たちも相変わらずだなぁ」
ルージャ・ノイル「!!?」
たっぷりおばさんに絞られ、文句を言いながら家に戻る途中。どこからか聞こえてきた声に、2人は耳を疑った。しかし、視覚が教えてくれる。民家の屋根の上に立っているのは間違いなく、2人の良き理解者、エドウェルムであることを。
エド「ま、明後日のためだって分かってるけどな。島はあまりに暇だったからさ。おれ、ついこっちに来ちゃったよ」
エドとは2年ほど前に少し会ったきりであったが、2人の目からは、5年経ってもその仕草、悪戯っぽい笑みにはエドらしさが見えていた。
◇◇◇
???2「…では、300ゴールドになります」
*「はい、ありがとうね。お家に飾らせてもらうわ」
???2「どうもありがとうございましたー!…ふぅ」
客を見送り、一仕事終えた青年は、ソファーにどさっと座り込んだ。疲れ気味の体に、ソファーのクッションは心地良かった。
10分ほど、彼はぼんやりと天井を眺めていた。壁一面は額縁だらけで、所狭しと絵が飾られている。彼はふと腰を上げ、前もって準備していた紙を店の入口に張り出した。
『勝手ながら、9月30日までお休みさせていただきます』
???2「…いいよな、ちょっとぐらい」
そう言って伸びをしかけたところ、彼は店の前で立ち往生する見慣れた少女を見つけ、店に招き入れた。
???2「どうぞ、エリスちゃん」
エリス「…アリュードおにいちゃん、いいの?おやすみなんでしょ?」
アリュード「気にしないで。エリスちゃんをずっと、お店の前で困らせるわけにはいかないよ」
アリュードはそう言って、ティーセットを2つ用意した。
アリュード「はい、どうぞ」
エリス「ありがとう!いただきまーす!」
アリュード「…ところで、今日はどうしたんだい?」
アリュードはエリスにそう訊ねた。この少女、よく店に来る常連ともいえる子で、いつもアリュードに「これを描いて」「あれを描いて」とお願いしに来るのだ。そのお願いに応えるのは、アリュード自身全く苦ではなかったので、大方今回もそうだろうと、彼は画材の準備に取りかかろうとした。が、エリスはそれに首を振って、アリュードにこんなことを言った。
エリス「ううん、きょうはね、おにいちゃんにプレゼントがあるの!はい、これ!」
アリュード「プレゼント…?何だろう?」
アリュードは渡された紙を開いた。そこには、両手に剣を握るアリュードが描かれていた。
エリス「けんをもってるときのおにいちゃん、とってもかっこいいよ!」
アリュード「…ありがとう、エリスちゃん。とっても嬉しいよ」
小さい子が描いた絵には、もちろん拙さが残っている。しかしアリュードは、それを貰って喜んでいた。
アリュード「よし、明後日は出かけるから、明日は僕が遊んであげるよ。お店もお休みだしね」
エリス「ほんと!?やったー!!」
無邪気に笑う少女を見て、アリュードもまた微笑みを浮かべた。