Chapter 32-4
コンコン、と周りの壁を軽く叩いて音を確かめ、牢の柵を握って揺らそうとする。もちろんほんのわずかに軋む程度しか歪むことはなかったが、彼女―――レイシアは、何かをしようとしているらしかった。

アンナ「…レイシア、あんた何かする気なのかい?」
レイシア「うん、この強度なら破れそうな気がするの」
アリュード「破れそう…?それってどういうこと?」
レイシア「…その通りの意味よ?この柵を破壊するのよ」

レイシアは何食わぬ顔でさらりと言った。セリスが心配そうに彼女を見る。

セリス「お前、ここに飛ばされてからやけに静かだったと思ったら、急に何を…。大丈夫か?」

台詞だけなら半ばからかっているようにも取れるが、セリスにそんなつもりは毛頭なかった。それを感じ取ったか、レイシアも素直に返す。

レイシア「…うん、ちょっと考えてたの。私って弱いな、って」
セリス「弱い?お前がか?」
レイシア「そう。少しは武術を磨いた気になってたけれど、ただキースさんを間近で見ただけで、動けなかった。あの人は…ずっと私たちを支えていてくれたのに、私にはそれに応えられるぐらいの心の強さすらもなかったって知らされたもの…」

目を伏せて、レイシアは胸中を語った。それから、セリスが何かを言う前に、柵の方に向いて構えをとり始めた。

レイシア「…こんなところで諦めるような教えは受けていない。だから私は限界までもがいてみることにしたの…みんな、柵や私から離れてて。大丈夫、自爆なんてしないから」

レイシアは顔だけ後ろを向いて微笑すると、再び向き直り、気を集中させていった。すると、彼女の周りに見えるほどの気が渦巻いているのが分かった。

アルム「すごい…!」

知らぬ間に、アルムはそう呟いていた。レイシアの指先が、彼女の前の空間で十字を切った時、一部の者は彼女が何を繰り出すのかに気付いた。

レイシア「お願いだから…壊れてよ!…グランドクロス!!」

閃光がレイシアから放たれ、他の者の視界を奪った。そして、直後に頑丈な床が揺れるほどの衝撃と、思わず耳を塞ぐほどの轟音が狭い部屋の中に響き渡った。

それらが収まり、やがて戻ってきた視界は、驚くべき光景を映し出していた。


あれほど皆を拒んでいた牢の柵が、いとも簡単に吹き飛んでいた。
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