Chapter 13-9
が、レイシアもただでは転ばなかった。自分の奥底に眠る力を引き出そうと、懸命に痛みを振り払って戦う。そしてついに、ロエンの腹に深い突きを打ち込むことに成功した。今日の訓練のことを考えていないのか、レイシアは完全に自身の持つ力を出している。しばらく咳き込んでいたロエンだったが、息が整うと、再びレイシアに向かっていった。
…驚くは、そのスピードだった。
アルム「さっきより…速い!」
そう。ロエンの特訓は確かに実をつけていたのだ。ここに来て、ついにロエンのスピードがレイシアのそれを完全に上回った。
防御に徹するレイシアだったが、元の速さから違っては、防ぎきるのは難しかった。足をすくわれ、地面に倒れたレイシアの顔のすぐ横に、ロエンの踵落としが入った。
レイシア「…降参よ」
短く、少し自嘲気味に、レイシアはそう呟いた。
アルム「うそ…ロエンが、レイシアに勝っちゃった…!」
驚嘆するアルム。起き上がったレイシアの横で、ロエンは心ここにあらずといったような表情を浮かべたまま、その場に突っ立っていた。自身の「壁」を打ち破ったことに対する実感が、まるで無いかのように。
レイシア「…ロエン」
彼女が肩を叩いた時、ロエンはやっと反応した。
ロエン「あ…レイシア」
レイシア「…悔しいけど、私の完敗だったわ。私…心のどこかで気が緩んでたのかも知れない…。ずっとあなたが私を相手にしてくれたんだから、自信持ってよね」
ロエン「…確認するけど…手、抜いてないよね…?」
レイシア「ふふっ…私が真剣勝負で手を抜くような人間に見えるかしら?」
ロエン「…いや、見えない…」
レイシア「なら、そういうことよ」
レイシアはそう言うと、自分の部屋へと戻っていった。その背中には、語らずとも感じ取れる、強い意思がこもっていた。
ロエン「アルム…」
不意にロエンが口を開く。
ロエン「何だか…夢みたいだ」
アルム「そうだね、これは夢だね」
ロエン「えっ…?」
アルムの不可解な言葉に、ロエンは思わず声を漏らした。
アルム「これは夢だった。自分はまだレイシアに勝っちゃいない、って思ってこれからも頑張らなきゃ。レイシアから完全な勝ちを掴み取るまではね」
ロエン「アルム…そうだね、僕ももっと強くならないと…掴み取らないと…いけないよね…」
複雑な表情ながらも、固くそう誓ったロエンであった。