Chapter 3-5
「てめー……よくもクラリスを……!」
キースの声は怒気に満ち満ちていた。彼の場所からは、クラリスの安否が分からないのである。彼女が石の雨に飲み込まれた瞬間、キースの中で何かが切れていた。アレクの声も、キースには届いていなかったのかもしれない。

そうとは知らず、無事に助け出されているクラリスは、両手をかざした姿勢のままで目を閉じ、深く息を吸い、そして吐いた。すると、青白い光が彼女の両手を包んでいった。ほどなく、そばにいるアレクも冷気を感じ始める。
ゴーレムは足元の虫が邪魔で、こちらにはまるで気づかない。アレクが隠れる意味も、もはやなかった。

「いくわよ、ヒャダルコ!」
凛とした声で、詠唱が響いた途端に、彼女の手から強い吹雪が起こり、ゴーレムに襲いかかった。
またしても吼えるゴーレム。その背中側にいたキースには、吹雪は届かない。いや、あるいは怒りでそれを感じていないのかもしれない。ひたすらに振るわれる剣は、確実にゴーレムの体力を削っていた。
「僕も援護するよ……メラミっ!」
今度はアレクが、大きな火球を創り出す。それは一直線にゴーレムへと飛んでいく。鈍重な岩の巨体が、高速で向かってくる火の玉を避ける術は、ない。
三度響き渡る咆哮。だが、この時には、キースの剣がゴーレムの両の腕を砕いていた。無差別に振り回される凶器はもう、ゴーレムにはない。
今が好機とばかりに、アレクたちは呪文で攻め立てた。

何度火球を飛ばし、何度吹雪を見舞っただろうか、ゴーレムはかろうじて原型を留めるまでに崩れかかっていた。
気がつけば、辺りは暗くなっていた。ふとアレクが空を見上げると、厚い灰色の雲が、空を隠していた。先ほどの呪文の連発の影響なのかどうなのか。
「行けるわ、このまま……」
「待って!」
さらなる追撃をと、とどめの呪文を唱える構えに入っていたクラリスを、アレクが制した。「あれを見て」と彼が指差す先、ゴーレムの頭には、なんとキースがよじ登っている。
「……これで……終わりだ!」
キースはゴーレムの頭に草薙の剣を突き刺し、飛び降りた。深々と、刀身が隠れるほどに沈み込んだ剣を一点に見据えて、彼は力強く叫んだ。
「……ライデイィィィン!!」
「「……!!?」」
鉛の空が、にわかに強く輝く。次の瞬間、天からの雷が剣を伝い、ゴーレムの全身を駆け巡った。
グォォォォ……という、もはや声ですらない大きな音を発し、巨体が地に倒れる。ゴーレムの最期だ。
「やった……」
「勝ったわね……」
アレクとクラリスは安堵のため息をつく。そうしてキースのもとに駆けていく。ゴーレムの頭に刺さった剣を引き抜いたキースは、二人の姿を認めたかと思うと――

――そのまま、地面に倒れ伏した。

「「キース!!!」」
アレクたちは慌てて倒れたキースのもとに駆け寄り、彼の身体を揺さぶる。が、返事はない。
「どうしよう、反応がない……どうすれば……!」
「アレク、落ち着いて。とにかくメルキドの宿屋まで行きましょう。キースなら大丈夫よ、きっと……」
震える声を押し殺して、クラリスが言った。少し落ち着きを取り戻したアレクは頷き、「待ってて、人を呼んでくる!」と駆け出した。



「……っ……つ……!」
頭痛を感じて、目を覚ます。すると、こちらを心配そうに見つめる四つの瞳があった。
「あれ……アレク、クラリス……?」
「「キース!!」」
2人はほっと息を吐いた。起き上がったキースは周りを見る。宿屋のようだ。
「ゴーレムとの戦いが終わってすぐ、倒れたんだよ。覚えてるかい?」
「あぁ……そういえばそんな気がするな……。ここまで運んでくれたのか? 助かったぜ、ありがとな」
「気にしないで、仲間じゃない。それより、体は大丈夫?」
「……多分な。どこもちゃんと動くし、痛みもほとんどねーよ。ただ、ちょっと疲れたかもな」
苦笑いを浮かべ、キースが呟く。それに同調するように、アレクが言った。
「僕たちもクタクタだよ。とりあえず、今日は休もうか」
「そうね、色々聞きたいことはあるけれど……明日でもいいわね」

そう言って、アレクもクラリスも、のそのそと自分の寝床へと戻る。これまでになく激しい戦いで疲労した三人が深い眠りに落ちるのに、そう時間はかからなかった。
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