Chapter 3-3
「僕たちに……ですか?」
「そうだ」
「ちょっと待って下さい」
主からの提案に、クラリスが割って入った。
「ゴーレムをやっつけるのには軍隊でも手こずるのでしょう? そんなものを、私たちだけで倒せ、って言うのですか?」
「その通りだ。たかが船一隻でと言うが、こちらにすれば君たちに預けるのは船だけではない」
「……?」
「船を貸せば、『どこの誰とも知らない旅人に船を貸した』と皆に言われることになる。もし君たちが目的を果たせなければ、わたしの信用に関わるのだよ」
「…………」
「だから、このくらいはやってもらわないと困る。ゴーレムと戦って、打ち倒して、安心して船を預けられると判断できる力量を示してくれないことには、君たちに投資はできない。どうかね?」

厳しい条件に、押し黙る三人。主は返事を急かすこともせず、ただ三人からの答えを待っている。
「……ひとつ聞いていいですか」
キースがおもむろに訊ねた。「何かね?」という主の声に、続ける。
「ゴーレムを倒したとして、街は大丈夫なんですか?」
「うむ。メルキドの防護には、あの城壁さえあれば、あとは人力の防御でなんとでもなるというのが大方の見解のようだ」
キースの心配は杞憂だと言わんばかりに、主は返事をした。

「ゴーレムが取り除かれた場合には、必要ならばラダトームから補強の警備兵を送り、メルキドに配置することもほぼ決定されている。アレフガルドにとっても、ゴーレムの存在はもう邪魔でしかないのが事実だ。あれをどかせさえすれば、メルキドはもとより、アレフガルド全体に一層の発展を見込める。もちろんわたしにも多大な益があることは隠さず言っておこう。そうなれば、船の一隻や二隻、貸すと言わず君たちに差し上げようじゃないか。どうだね?」

かなりの難題を突きつけられたが、しかしこの提案を断る道は三人にはなかった。自分たちには、船が必要だ。当てはここしかない。やるしかない。決心したように、彼らは顔を見合わせ、そして答える。

「「「分かりました!!」」」
と。



翌日。

まだ日も昇らぬ薄暗い中に、三人はいた。リムルダールの街の入り口、旅支度を整えた彼らは、もちろん宿代を払い終えている。
クラリス曰く、「ラダトームまではすぐに着く」という。アレフガルド東の街と中心の国、苦労重ねて移動してきたキースたちにとって、それはにわかには信じがたい言葉だった。
「嘘じゃないわ、ちょっと寄って」
二人に手招きをするクラリス。訝りながらも従う二人。
そうして三人の体が触れ合うか否かの距離になったとき、クラリスは叫ぶように鋭く、通る声で唱えた。

「……ルーラっ!」

視界が一転する。世界が、変わった。


「……すっげーな」
「この噴水はラダトームだ……ほんとに一瞬で来ちゃったよ」
「ね、言ったでしょ」
三人は噴水の見える通りの入口に立っていた。その奥に佇む荘厳な城、振り返れば風吹き渡る草原。
ここがラダトームであるということは、疑う余地もなかった。
「……一体何が起こったってんだ?」
「ルーラ……瞬間移動呪文だ。一度行った街や城に飛んで行けるっていう」
「そう。それを私がかけたの」
「ほぉー……すげーもんだな」
アレクの説明に、クラリスは頷き、キースはただ驚嘆する。
「……けど、どうしてクラリスはこんなに色々な呪文を?」
「えっ?」

アレクが何気なく投げかけた問いに、クラリスの表情がわずかに曇る。
が、すぐに元の笑顔に戻り、「さあ、どうしてかしらね。一応、私の家系には魔法使いが多かったみたいなんだけど」と言った。
「なるほどな、そりゃ魔法やら呪文やらに詳しいわけだ」
キースはそれを知ってか知らずか、そう相槌を打つ。
「ほんとは直接メルキドまで飛びたかったんだけど、メルキドには行ったことが無いから、直接行くのは無理だったわ。ごめんなさい」
クラリスは少し苦笑いを浮かべつつ謝ったが、所要時間がほぼ半分になったという事実を考えれば、ラダトームからで十分としてもお釣りが来るだろう。
「よし、それじゃ行くか!」
「うん!」
「ええ!」
気を入れて、三人はメルキドへの路を歩き出した。

歩いて歩いて、その昔ドムドーラの街があったと伝え聞く砂漠を越えた辺りから、現れる敵も少しずつ強さを増してきた。
今もキースたちは、モンスターと対峙している。残り一匹、魔のサソリである。しかし敵は、キースが自慢の切れ味を誇る草薙の剣で斬りつけても、あまりさしたる傷が付かないほどの堅さを持っており、戦いはやや長引いていた。
そうして手間取っていると、さらに魔のサソリがもう二匹現れた。
「……ああもう、このままじゃ埒があかないわ! もう終わりにするわよ、イオ!」
いよいよ痺れを切らしたか、クラリスが小さな爆発を起こし、敵を包んだ。キースとアレクはこの光景を一度見ている。ムザルが使った呪文だ。

「僕だって負けてられない……ルカナン!」
アレクがやや焦げかけた敵の群れに向かって唱える。直後にキースが剣を横に振るうと、それまで確かな手応えを掴めなかった三匹のサソリは胴体を斬り飛ばされ、みな動かなくなった。

「ふう、結構タフな戦いだったな」
「だね……短期決戦で行けばよかったかな」
「勝ったんだからいいじゃない。さ、行きましょ!」

長い戦闘が終わっても元気そのままに、三人はメルキドに向かった。
目標、ゴーレムまであと少し――だが、彼らはひとつ重大なことを忘れていた。
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