Chapter 3-2
「セレイス様御一行ですね。お話は伺っております、どうぞこちらへ」

屋敷の入り口で案内人らしき女性が頭を下げ、歩き始める。それに従って、キースたちも歩を進めていく。
(おいアレク、どうするんだ?)
(ここは僕に任せて。危ないと思ったら、フォローはよろしくね)
(分かったわ、頑張ってね)
小声で囁きあい、彼らは屋敷の中を進んだ。煌やかな装飾の廊下を横切り、中庭の縁を歩く。やがて一つの扉の前で彼女は立ち止まり、コンコンと扉を叩いた。
「失礼いたします」と、ゆっくり扉を開く。その奥には、この屋敷の主らしき男が座っていた。屋敷の主というと老年の男性を想うが、目の前の男は若々しく、白髪も見えなかった。

「うむ、よく来てくれたね。まあ入りなさい」
「失礼します」
声に導かれるままに、三人は奥のテーブルに通される。掛けなさい、と一言受けて、三人はほぼ同時に腰を下ろした。
「さて……アレク=セレイスくん、と言ったかな?」
「はい、お目にかかれて光栄です。お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます」
アレクが慣れたように話す。キースとクラリスは、ここでは名前だけの簡単な自己紹介をしてひとまず頭を下げておいた。
「うむ、ここに来たということは……少し野暮な話だが、用件を聞こうじゃないか」

早速本題を要求されるが、アレクは慌てる様子なく話した。
「はい、単刀直入に申し上げますが、この度はあなたの所有されている船をお借りしたいと思い、伺いました」
「ふむ……船か。しかしだな、急に押し掛けられて、たった今知り合った者にそう簡単に船は貸せんよ、君たちだってそれはわかるだろう?」
「それは……」
クラリスが口をつぐむ。やっぱりダメか――そんな思いが強くなる。
「ただ、だからといって君たちにさあ帰ってくれ、とは言わん。よかったら何故船を借りたいのか教えてくれないかな?」
三人は主の言葉に驚いたが、キースが事の事情を説明すると、今度は主が驚いたように三人に顔を向けた。
「なんと……この世界を滅ぼさんとする者が現れたと。そして君たちはその者を討つべく旅をしていると。そういうことだね」
「はい、そうです。俺たちは世界を旅して、バスラをぶっ倒さねーといけないんです……! だから、そのためにも……」
キースはこれまでにない強い口調ではっきりと答えた。

その様子に、主も少し考える。そして、暫し間を置いた後に答えた。
「わかった……と言いたいところだが、わたしは君たちを完全に信用した訳じゃない。だから、ちょっとあることをやってもらいたい」
主は立ち上がり、窓際に歩いていった。
「つまり、君たちは本当に強いのかどうか、闇を討つに足る力を持っているかどうか、わたしに試させて欲しい」
「一体何をすれば……?」
アレクがそう訊ねると、主は振り返って問うた。
「メルキドの町にゴーレムという巨大機械人間がいるのは知ってるね?」
キースとアレクは即座に頷いた。やや遅れ、クラリスも慌てたように頷く。
「あれは何のためにあるか、君たちは知っているかね?」
その問いにはい、と返したのはアレク。
「その昔、竜王がアレフガルドの征服に乗り出した頃、竜王の征服拠点だった城から近いメルキドの民は、城壁だけでは心許ないと考え、現れ始めた魔物の群れから街を守るために、ゴーレムを創り入り口に配したと聞いています」
「その通り。なかなか博識じゃないか」
アレクがしっかりと正答を返したことに上機嫌になったのか、主は笑顔で頷いた。
「もちろん当時は鉄壁の守り、ゴーレムは竜王の軍を退けるのに一役も二役も買ったそうだ。実際、ゴーレムを打ち破ったのは、竜王を討ち倒したロトの子孫たる青年だけだと伝え聞く」
「そうだったのか……!」
キースの目が輝く。主はうむ、と頷き話を続ける。
「竜王が倒されてからしばらく、また魔物たちが動きを見せ始めると、研究者たちも馬鹿ではない、改良を加えて新たなゴーレムを配備したのだが……それが目の上の瘤になってしまってね」
「目の上の瘤……ですか?」
クラリスが繰り返す。主はなおも話を続けた。
「うむ。ゴーレムは街の防御においてはすばらしい力を見せた。だが、侵略者と隊商の区別をつけられるほど賢くはなかった。アレフガルド全体が発展し、ラダトームを中心に栄えてくると、メルキドは主要な都市間との貿易に後れを取るようになってしまった。ゴーレムの存在が多大な障壁となって、メルキドとその他の都市とは、陸路による貿易はまともに行われていないのが現状だ」
なるほど、と三人は頷く。
「もちろんゴーレムをある程度操ることはできようが、しかしそれには二十四時間体制でゴーレムの制御をする必要がある。それを行う人員も費用も、メルキドが負担できるものではないのだ」
となれば話は簡単だ、と主は言う。

「……君たちには、そのゴーレムを倒してもらいたいのだ」
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