Chapter 3-1
「暗いな……」
先頭を歩くキースが、手探りで注意深く進み出す。
「ほんとだ、前が見えないね……」
アレクも目が慣れず、暗闇に視界を奪われているようだ。
「そうね、これじゃ道が分からないわ……あっ!」
そして二人の後ろを歩く、新しく仲間に加わったクラリス。何かを思い出したように、彼女は声を漏らした。
「暗いなら、明るくすればいいんだわ!」

彼らは今、マイラの村から南に位置するリムルダールを目指して、その道中にある沼地の洞窟に入ったところだった。しかし、洞窟の中は予想以上に暗く、前方はおろかすぐ前にいる仲間の姿すらもはっきりと見えない。
これはどうすべきかと悩むキースたちに、クラリスはそう言った。
「明るくって言っても、どうするつもりなんだい?」
「ああ、懐中電灯なんか誰も持ってねーぞ?」
「大丈夫、私に任せて」
怪訝そうな二人をよそに、クラリスは目を閉じて集中し、呟く。

「……レミーラ」

すると、なんと洞窟の中がぼんやりと明るみ、三人の行く道を照らし出した。
「こいつはすげーな。クラリス、こんなことも出来んのかよ」
「それほどでもないってば。一応、こういう補助的な呪文はわりかし得意なつもりだから」
少し照れを見せつつ、彼女は言った。が、同じ呪文使いとして、アレクはクラリスに感服しているようだ。
「へぇ……ね、今度今の呪文とか、色々教えてもらってもいいかな?」
「もちろんよ、私で役に立てるなら」
クラリスはそう微笑んだ。

明るくなった洞窟はほとんどまっすぐな一本道であったと分かり、敵ではなくなった。
これを抜け、そびえる岩山を西側から回り込むように歩き続ける。
途中野宿を挟んで、なおも山脈に沿う形でぐるりと歩くと、ようやく街と思しき影が彼らの前方に広がった。目的地、リムルダールと見て間違いはない。

彼らは、船を借り受けるためにリムルダールへとやってきた。
彼らの目指す旅に、船は必要不可欠なものであった。

クラリスを仲間に加えた後にマイラで話を聞いたところ、ここリムルダールにはアレフガルドでも有数の富豪が住んでおり、船をいくつも所有しているという情報をキースたちは掴んだ。船というとラダトームだが、軍船のため民間人の借用は常識的に考えて不可能だった。

「ふぅ、やっと着いたな」
「リムルダールって結構広いんだね……」
「そうね。さて、大きくて目立つ家があるって話だったけれど……あっ、あれがそうじゃないかしら?」
リムルダールに着くや否や、三人は屋敷の探索を試みるつもりだったのだが、それは難なく発見された。クラリスが指差した先には、なかなかに大きな屋敷の屋根が顔を覗かせていた。位置的に、街の北西部を占めているようだ。

「よし、とりあえず場所は分かったし、宿を取らねーと。こんな汚れた格好で行くのも気が引けるしな」
「そうね、私も今日は疲れちゃったし……ベッドでゆっくり寝たいわ」
「じゃあ、僕は屋敷の人にアポイント取ってくるから、二人は先に宿屋に行ってて」
「オッケー、任せたぜ」
屋敷の方に走っていくアレクを見送るのもほどほどに、キースとクラリスは宿屋へと向かう。運良く部屋が空いており、風呂などをすませて一息ついた。

しばらくして、アレクは戻ってきた。
「明日の昼から、会ってくれるみたい」
「そっか、よし。一筋縄じゃいかないだろうけど、なんとか貸してもらわねーとな!」
「だね、頑張ろう!」
そう言い合って、この日は夜を迎えた。

そして、翌日。
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