Chapter 1-4
「………か……? 大丈夫か?」
「ん…………? ぐっ…‥」

激痛に顔を歪め、キースは目を開けた。天井の装飾と聞こえてきた声から、バスラと戦ったそのフロアだということと、自分は仰向けに寝転がっており、側に何者かの人影があることが分かった。

「ふう、生きておったか。どうやら意識を取り戻したようじゃな」
「あ……あんたは……?」
「ワシは竜王じゃ。初代から数えて……えーと、八代目くらいかの?」
竜王は指折り数えてそう言った。それからおもむろに懐を探り、草の束を寝転がったキースの胸に投げた。
「薬草じゃ。完治はせんが、立てるくらいにはなるだろう」
「……悪いな」

短く礼を言って、置かれた薬草を使うキース。幾分か痛みは引き、どうやら立ち上がれる程度には回復したらしかった。

「助かったぜ。サンキューな」
「気に病むな、ワシもついさっき気がついた所じゃからな」
「……?」
「いやの、玉座に座っておったらいきなり目の前が真っ暗になったのじゃ。全く、あのバスラとか言う奴め、ワシの城で好き勝手しおって……」
「竜王のあんたでもバスラには敵わなかったのか……?」
「突然のことじゃったもんで、対応できなんだ。それにワシは戦いは出来ん、戦えたのは3代目くらいまでじゃ」

竜王はそう言うと、玉座に戻っていった。互いに無言の時間が流れる。その沈黙を破ったのは、竜王の方だった。

「そう言えば、まだ名を聞いておらなんだな。お主の名は何と言う?」
「俺? 俺はキース。キース=クランド」
「キース……か。キースよ、お主はなぜこの城に来た?」
「えっ?」

突然の質問に面食らったキースだったが、目的を思い出し竜王に話す。
「ああ、ラダトームで竜王の城で何か起こったって聞いてな。調べてみようと思って来たんだ」
「なんと、そうだったのか」
「ああ。だけどこのザマだ……。ちくしょう、あの野郎必ず倒してやる!」

ぐっ、と拳を握り締めるキース。掌が赤くなるほどに力がこもっていた。
「ふむ……お主なら、あのバスラとやら、討てるかもしれぬ!」
「は?」
キースは耳を疑った。まさか、自分はバスラにあれほど蹂躙されたではないか。
「無理だよ、今の俺の状態分かってんだろ? たった今、手も足も出なかった奴を倒せ、なんて寝言もいいとこじゃねーか」
「キース、人は月日を経れば経るだけ強くなると、ワシは本で読んだことがある。お主の強い意志に、ワシは先の例外を見るじゃろうか。バスラとの戦いとて、剣が折れなければ、まだ戦いは分からなかったじゃろ?」
「いや……剣が折れてなかったとしても、あの剣は護身用のチャチなやつだったし……」
「ならば、この世界にある最強の剣を以てすれば、奴を倒すことも出来るやもしれぬ」
「……そうかもしんねーけど……今のままじゃ犬死にするのが目に見えてるってんだ!」

キースは半ば苛立っていた。歯が立たない相手と再び戦えと、暗に示されていることに気付いたからだ。
ところが、竜王はキースの考えつかなかった言葉を発した。

「……お主、一人で奴に挑む必要は無いことを忘れておるぞ」
「……!!」

竜王は真っ直ぐにキースを見つめた。
その言葉の意図を理解し、キースはふう、と息を吐いた。

「……ありがとな。そうだ……俺だけじゃダメなんだ。仲間を探さねーと……!」
「その通りじゃ。キースよ、これはワシからの餞別じゃ。必ずやバスラを討つのだ!」

キースは竜王から皮の盾を渡された。くたびれ、頼りない防具ではあるが、竜王の意志ははっきりと感じ取れた。

「ああ、必ず倒してみせる……! そしたら、もう一度ここに来るぜ」
「うむ、ではキース、さらばじゃ」

最後に竜王と握手を交わし、キースは城を後にした。
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