Chapter 25-7
「それでは行きますよ。ピオリム!」

キースは怪訝そうな顔をした。ピオリム? 聞いたことがない呪文だ。しかし、自分に何の変化もないことを知ると、表情を戻した。

(大方、スカラやバイキルトと同じ自分の能力を上げる呪文だろう。何が上がるかだ……力は違う……守りもスカラがある……となると……)

男が動き始めた。瞬間的にキースに迫ってくる。
「……やっぱり素早さか!!」
キースは男の動きに遅れる事なく、剣で攻撃を防いだ。そしてそのまま切って返し、再び剣を構え直した。
「今度は俺の番だ、行くぞ!」
キースは高く飛び上がった。落下のエネルギーを利用して打撃力を増大させる、単純かつ合理的な攻撃だ。
だが、先の一撃を払われたにも関わらず、男は冷静だった。

「ボミオス!」
(今度は何だ!?)
今の呪文はキースに向けて放たれた。途端にキースは、スピードが薄れていくのを感じた。
「何だと……!」
「先ほどのピオリムは術者の素早さを倍化させ、今のボミオスは対象となる者の素早さを半減させます。つまり、あなたは普通に戦う時より、四倍速い私を相手にすることになるのです」
説明された時、キースの視界から男は消えていた。
「キース、後ろだ!」
「!!!」
ディルの声に振り向くも、既に男の剣はキースの背中を捉えていた。
「ぐっ……痛っ……!」
キースの顔が歪む。男は再びキースに斬りかかってくる。二撃目は何とかしのいだが、着地した時に背中に鋭い痛みを感じた。
「どうです? 私の動きを捉え切れますか?」
男の言葉に、キースは剣を鞘に戻し、無言で目を閉じた。途端に、背中の傷が癒え始める。だが、ただ突っ立っているだけのその格好は、あまりにも無防備だ。
「……回復ですか。させませんよ!」
男は目を閉じて瞑想を続けるキースに再び襲いかかった。しかし、その瞬間キースは目を開いた。

「かかったな!」
「な……何!?」
キースの右脚がうっすらと光っている。しかも、既に振り上げられていた。ボミオスをかけられた状態なのにだ。
「うまい! 相手の間合いに入った、もう逃げ切れねえぜ!」
ディルは思わず立ち上がった。完全に捉えたと確信した。
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