わたしの同期は皆優秀だ。

御三家の跡取りで、無下限と六眼の抱き合わせ。

一般家庭出身ながらも呪霊操縦を使いこなすやり手。

呪術界では重宝される反転術式の使い手。

お顔の作りのよさも相まって、なんかもう、人外的な?

それに対してわたしはといえば呪術系の家の出身ではあるものの、御三家と比べたら月とすっぽん。

多分知らない人のほうが多いと思う。

術式だって封印系と結界に特化したもので、祓うことには向いていない。

呪力コントロールも下手くそなので、本当に役立たずな人間だ。

硝子や傑は普通の同級生として仲良くしてくれるし、要領が悪くてグズなわたしに根気よく付き合ってくれる。

でも、五条くんは違う。

入学式の日、お前の術式しょぼいねって言われたし、弱い奴は呪術師やめろってよく言われる。

会えば舌打ちか睨まれるし、正直すごく怖い。

それが原因で傑と喧嘩してたりするし。

だからなるべく避けていたのに今日は五条くんと任務だ。

しかも相手は一級らしい。

三級術師のわたしがなぜ同行することになったかと言えば、その呪霊が生み出したらしい呪具を封印するためだ。

わたしのしょぼい術式は呪具や呪いを封印できる。

これは夜蛾先生もお墨付きで等級に関係なく封印できるんだけれども、問題は封印した後。

呪力が不安定なわたしは封印した後にスッカラカンになって倒れることもしばしば。

だからわたしの任務は必ず誰かと一緒じゃなきゃいけない。

努力をすればいつかは自分だけで、と努力を続けているけれど本当にそんな日はくるのだろうか?

正直、あんまり自信ない。


「お前、弱いんだから前出るなよ」


「は、はい」


補助監督さんが帳を下ろしてくれてから早30分くらい。

深い森をだいぶ歩いたところにある祠が見えてくると、空気が重くなった。

禍々しい呪霊が現れてこちらの様子を伺っている。

明らかにわたしよりも格上であることを肌でビリビリ感じとって、わたしの足は竦んだ。


「びびってんの?雑魚じゃん」


「ご、ごめんなさい。めちゃくちゃ怖いです」


「こんなん秒だから」


五条君はにやりと笑って術式を発動する。

瞬きする間に呪霊は消えて、空気が軽くなった。


「すごーい!!」


本当に一瞬の出来事には思わずはしゃいでしまう。


「……はしゃいでないで封印」


「あ、はい!」


わたしは慌てて祠の扉を開ける。

禍々しい呪具がその中にあったので、術式を使って封印を始める。

今回の呪具は特に問題もなさそうで、呪具を囲うように四隅に座標を当てて、封印が済むまで呪力を流すだけなのでそんなに難しいことはない。

呪力を流すこと5分くらい。

封印は無事に成功した。

意識を失って倒れることはなかったけれども、ガス欠ギリギリまで呪力を注いだせいか、立ち上がることが出来なくなった。


「お前、蛇口捻りすぎなんだよ。もっとちゃんとコントロールしたら半分くらいの呪力量でいけるだろ。ホント、雑魚すぎない?」


「返す言葉もありません……」


「ほら、早くしろよ」


五条くんはわたしが封印した呪具を桐の箱に入れて風呂敷で包んだ後、自分の胸側に呪具が来るように身体に結びつけてからわたしの前に背を向けてしゃがんだ。


「乗れよ。早く帰るぞ」


「あ、はい」


あまりにも自然な流れだったのでとりあえず五条くんにおぶってもらう。

五条くんは長い足でヒョイヒョイと森を進んでいく。

わたしは普通の人よりは小柄だけど、軽くは無いはず。

それなのに五条くんの足取りは軽やかだ。

しかも、なんか、いい匂いがする。

ていうか五条くん、傑と比べると細めに見えるけど、肩幅がっしりしてるなーーーえ、ちょっと待って。

わたし、今、男の人に背負われてる。

突然、この状況への羞恥心に襲われる。

あ、わたし、今、耳まで真っ赤だ。


「………お、重くない?」


「……は?お前、俺のことナメてんの?てか落っこちるだろ。ちゃんと捕まれって」


耐えきれずに言えば、舌打ちと共に怒られたわたしは慌てて五条くんにしがみつく。

すると五条くんがいきなり足を止めた。


「え、やっぱり重い?置いてっていーよ!しばらくしたら歩けるようになるだろうし。なんなら這ってく!!」


「うるせえな……黙って背負われてろ」


「は、はい!!」


なんかもうドキドキしちゃって、いっぱいいっぱいで脳内で硝子に助けを求める。

なにこのシチュエーション。

無理なんだけど。

ドキドキが伝わっちゃったらどうしよう。

なんか、本当にもう無理。

ブツンて音がして意識が途切れる。

呪力切れのわたしはキャパオーバーとともに気を失ったらしかった。

気づいたらわたしは高専の談話室でソファーに寝かされていた。

身体には五条くんの学ランが掛けられていた。

学ランを丁重に綺麗にして、五条くんに返しにいくと今日は睨まれなかった。

しかもそれからなんだかいつもより五条くんがやけに優しい、気がする。

わからないことがあって困ってると教えてくれるようになったし、呪力コントロールの練習や体術の訓練にも付き合ってくれる。

ちゃんとグズなわたしにもわかるように噛み砕いてくれるし、手加減だってしてくれる。

でも優しくされ慣れてなくてビビってたらすごい怒られた。

引くほど怒られた。

五条くんって呼んだら祓うって言われた。

やっぱりごじ、じゃなくて、さ、悟くん………怖い、かも?









2024/04/11













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