いいサボり場所が見つかったと思ったのだ。次の授業がめんどくさいので、ここで鍵でも閉めてやり過ごそうと思ったら、ドアを開けたところで先客が居るのに気がついた。先生が居たのかとヒヤヒヤしたけれど、制服を着ている。それが三人ほど。はて、と首を傾げる。どこかで見たことあるような。というかつい最近海藤から話を聞いた先輩たちとやらに似ているような。と立ち往生していると、そのうちの一人が私に気がついたようで、何か取りに来た感じ?と聞いてきた。



「や、用事とかは全然。ただちょっと次サボろうかと思ったんですよ」

「ははあなるほど、君もサボりかー」

「はは、先輩たちもです?」

「そーそー」

「…つーか、お前どっかで見たことあんだけど」



黒髪の先輩がぐ、と目を細めて私を見てきた。こらー鈴木そんな睨まないの、なんてふわふわした髪の毛の先輩が彼改め鈴木先輩、を宥めるようにそんな言葉をかけて、鈴木先輩がそれに反論した。そしてわいわいと話す三人の会話の中で聞こえた平介、という名前。それになるほどそういうことか、とうなずく。やっぱり私の予想は外れていなかったらしい。



「もしかして先輩たちあれですか、海藤泣かせたって言うあの」

「知るか、勝手に泣き出したのはあいつだかんな」

「まあそりゃーごもっともです。わりかしすぐ泣くし海藤」

「あれ、もしかして君…」

「え?」

「三枝さんとやら?」

「え?はい」



なんで知っているのだろうか。私は特にこの先輩たちと直接的な接点はないのだけど。そうしてひたすらに頭上にハテナを浮かべていると、一人の先輩が(確か佐藤と呼ばれていたので佐藤先輩)フォローをするかのように声をあげた。



「あ、いやただ海藤くんから話とかちらっと聞いただけだよ、…中学の時によく泣かされてたとか言ってたけど!」

「ばっ、佐藤お前」

「あーいやいいですよ事実ですからねえ、ところで今更ですけど、お邪魔しても?そろそろチャイム鳴りそうなんで」

「あ、どーぞー」



と、先輩が言ったところでちょうど授業がはじまるチャイムが鳴った。さて行くところがないからといってこの状況。先輩の男子三人に一人。女子。どうやら面識はお互いあるようなものの、弾むような話も持ち合わせてないのでどうしたものか。と思ったが、お互いに共通の話題があることに気づく。そして私が口を開こうとすると、佐藤先輩が先に口を開いた。



「そういえば三枝さん、海藤くんって中学から変わらない?の?」

「まあそうですねえ、バカ真面目なとことか中学から変わらないですね」

「なんかわかる気がする」

「はじめて説教食らったのは先生じゃなくて海藤だったっていう伝説が」

「あはは!」

「あーなんか想像ができてしまう」

「ま、それでもこのようにサボり癖は直らなかったわけですけども」

「ほうほう」



多少は頑張ろうかな、とは思ったんで、と。まああんだけ人としてのあり方やらなんやらを中学1年の時から説教食らってたら面倒くさいから少しは改めよう、となったのが本音だけど。サボりたいときはとにかくサボる、がサボりたいときはサボるけど、それなりには限度とタイミングをわきまえる。程度には変化したわけで。あれ、これ変わってんのか。



「まあ平介のあれを三年間言われ続けたと思えば無理もねーわ」

「ふは、まーそうですね」



なんて言った時に、ガチャリと閉めたはずの鍵が回る音がした。え、何事。横の三人を見るとさぁっと顔が青ざめていた。まさか、先生とかが来てしまったのではなかろうか?これは面倒くさいことになった。なんて思っていると、ゆっくりとドアノブが回る。ぎゅっと目を瞑ったけど、その部屋に響いたのはなんとも普通の声で。



「よ、どしたの今日は人数多いねえ」

「えっ、先輩?」

「なんだー先輩かあ…」



ホッとした様子の彼らを見つめてから、その目の前の女の人を見つめる。彼らの先輩ということは、三年生の人なのだろう。そしてその上彼らの知り合い。どうしよう私すごくアウェイ。



「んー?ていうか君は…」

「ああ違うんです単にサボり場所が無くてご一緒しただけでそんなやましい気持ちはこれっぽっちも」

「正面ビンタの子か!」

「えっ」

「びーびー泣いてる海藤くんとやらに正面ビンタしてたじゃんこないだ」

「うげ、もしかして見てたんですかあれ」



うわ、やってしまった。あの時ちゃんと確認しとけばよかった。ぎぎぎと首を横に動かせば横の三人、というか平介先輩以外の二人はぷるぷると笑いを堪えているようだ。いや、だってしょうがないじゃないですか。



「つい、疲れちゃったのでやめさせようと」

「ぶっは!」

「いやはや面白いねえ一年生ちゃん、あたし気に入ったわ」

「三枝ですー」



結局このメンバーで談笑に花を咲かせ、チャイムがなったらお互いに別れる。なんだか、海藤の周りというか、彼自身もだけども、個性あふれる人が多いのだなあ。なんかいいなあ、と思いつつ、私は教室へと戻った。


130527/結んでひらひら

自分のことは棚上げにする

あーだこーだ言ってますけど海藤くんのことは友人として大切には思ってます。

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