くたびれた呼吸の先に行ってて

「あんさー」

「何?」

「……」



キイ、と小さな音を立てて部屋の椅子ごと振り返った悠太と、そんな私の言葉には全くもって無反応でアニメージャをぱらぱらと読んでいる祐希。こういう行動一つだけで双子の中の性格の大きな違いが垣間見えるような気がする。なんて雑誌片手にそんな事を思った。



「ひま」

「俺はご覧の通り、課題の最中ですんで」

「ですよね…祐希ー祐希くーん」

「何」

「私ー暇なんだけど」

「やだよ面倒くさい」

「何も言ってないですけど」



どうせ遊んでとかでしょ、だから無理と再び拒否の意志を示した祐希を、私はジト目で見てみるも、彼はアニメージャに視線を落としているので全く気づかれることもなく時が過ぎていった。いやまあ分かってた事だけどね。こう実際シカトされるとこんな悲しいのかね。だがしかし、私は諦めない。



「コンビニいきませんか」

「行かない」

「…本屋」

「行く」

「もーなんなのさー!いいけども!」



まあ、こういう結末になることは何となく分かってはいた。けれどまさかこんなにすんなりと食いつかれるとは。とにもかくにも言いだしたのは私である。横に置いてある鞄を持ち、祐希に早く準備するように促した。のそのそあからさまに面倒そうに今まで寝転がっていたベッドから起き上がった祐希を横目で見ながら、私は先にさっさと歩いて行く。いってらっしゃいとちょっと後ろの方から聞こえる課題中の悠太の声を聞きながら私は小さく行ってきますと言いながら玄関のドアノブに手をかけた。







「本屋行って何買うの?祐希は」

「さあ」

「あ、そう。まあいっか。私もちょっと時間かかるからゆっくり選んでて」

「はいはい」



本屋にはすぐたどり着き、祐希が漫画コーナーに足を運ぶのを一瞥して私は本屋の中の全く違うコーナーに足を運んだ。参考書を探しに来たのだ。買おう買おうと思いつつも、なかなか本屋に行く機会がなかったものだから、この際もう買ってしまおうと道中で思ったのである。とはいってみたものの、参考書なんて色々あって、どれにしようか迷ってしまう。ふと目に入った一冊の参考書を手にとろうとすると、同じ参考書に手を伸ばす一本の手。



「うあっ、すいません」

「あ、いや……」

「どうぞ…って要じゃん」

「何だ、お前かよ」



今のは多分知らない人だとかなり気まずい事になるだろうけれども、しかしこれがよくよく知ってる相手ということでお互いにどこか安堵の色を浮かべながらもそう言葉を発した。



「…てかうわあーなんで要とこんな少女漫画的シチュを体験しなきゃいけないわけ」

「いやお前それこっちの台詞だっつの。そういやこっちのコーナーに居るなんて珍しいな。いつも祐希と漫画コーナー行ってんじゃねえか」

「やー、祐希と来たんだけどそろそろ勉強もね、しないとと思ってね…おすすめの参考書とかない?」

「俺だっていいやつ探しに来たんだよそんなのわかるか」

「デスヨネー。あ、これ先にいいよ」

「ああ、…って、いいのか?」

「うん。私こっち見るから」



それから一冊の参考書を手に取り、ぱらぱらとページをめくってみる。これくらいなら私でもなんとかできそうだ。しかしながら買うのであれば、絶対にサボってはいけない。そういう気持ちで受験勉強に挑まなければいけないだろう。不意に横から声が振ってくる。



「あー…お前もう大学決めてんの?」

「ん、ぼんやりとはね。要は?」

「何となく決めてる」

「だろうと思った、その問題集ちょっと見せて」

「ほらよ、それ貸せ」

「どうも。はいよどーぞ」

「…にしても、意外だったな」

「何が?」

「お前が大学まで決めて勉強もしようとか思うとは」

「失礼だなー、…まあ改めて考えると、夏休みが折り返し地点なわけじゃん?だからやっぱり、私あんまり成績悪くはないけどいい方でもないから今のうちからやっとかないと、と思ったわけですよ」



そこまで言い切って、参考書からちらりと目を上げて要を見てみる。どこか驚いたような顔をして、私を見ていた。どんだけ怠惰な人間だと思われてるんだ私は。まああながち間違いではないのだけれど。実際今までそうだったし。いやこれからもその性格は変わる事はないのだろうけど、やはり受験生であるという意識が、心で渦巻きはじめたのだ。



「お前頭でも打ったか」

「うっわ何それ私超正常ですけど!」

「何やってんの」

「あ、祐希。買うの決まった?」

「いや保存用と観賞用買えそうになかったから」

「保存用いらないって悠太にも言われてなかった?」

「でもやっぱり無いとほら、あの頃のように綺麗でいて欲しいという気持ちがね」

「どうつっこんだらいいのよそれ」

「要ボンボンでしょ500円ちょうだい」

「誰がやるか誰が、自分で買えよ」

「じゃあ冬子お金」


「参考書買うからないない。領収書書いてもらえば?塚原要あてにさあ」

「あーなるほど」

「お前らなあ…!」



そうして私は今要が持っている、私が最初に読んでいた参考書と同じものを棚から抜き取り小走りでレジに行った。店員さんがバーコードを読み取っている時に、私は領収書お願いします、塚原要宛に。と言おうとしたのだけれど言ってる途中で要が背後にきて背中をばしんと叩かれたものだから最後まで言うことはできず、やっぱ今のなしで。と言いざるを得なかった。けど背中を叩かれはしたものの、ちょっとは女相手に力加減を出来るらしく、あまり痛くはなかった。それから3人で本屋を出てから途中のT字路で要とは別れる。



「あ、私祐希んちに忘れ物してないよね。まっすぐ帰ろうと思ったんだけど」

「知らないよそんなの」

「えー、まあいいやなんか忘れてたらメールしてね。それじゃまた明日」

「えー明日も来るの?」

「違うよ馬鹿。明日夏期講習じゃん」

「あー、そうだっけ」

「せいぜいサボるなよー、それじゃね」



ひらりと手を振って、さっき要と別れた場所からちょっとばかり先の曲がり角を曲がって、祐希とも別れたわけでついには一人になったというわけだ。といっても曲がり角を曲がればすぐに家なんだけど。家について、自分部屋に入ると本屋の袋を開けてさっきの参考書を取り出す。先ほど本屋で要に言った自分の言葉を思い出してみる。そうか、もう高校3年生も折り返し地点なのか。繰り返し反芻してようやく改めて実感した。今からやるかどうかを迷ったところで、携帯が何やら光っているのが見えたので見てみると、千鶴からメールが一斉送信されていた。明日の夏祭りの、お誘い。らしい。行きますとだけ返信して私は再びぴかぴかの参考書に目を落とした。



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