「は!?」
「付き合っ…えっ!?」
「ほらみてみ悠太さんや、やっぱ驚いたのはこの二人ぐらいだって」
「あーうん、そうみたいだね」
「かかか要くんは驚かないんですか!?」
結局本当に放課後に皆で集まって、何故だか屋上前の階段に屯っている私たちの中で、一番下の段に座る春のその戸惑ったように発せられた言葉に要は私たちを一瞥してから本に目を戻した。別に。それだけ言って要は一枚ページをぺらりとめくった。祐希はというと黙ったまま漫画を読んでいる。
「そんなどっかの女優みたいな台詞言わんでいーからさあ!要っちー!」
「そもそもお前らが鈍いんだよ、あんな誤魔化しに引っかかってんじゃ、」
「あれ要さっきほっとしてなかった?」
「しっ、てねえよ!余計な事言うな祐希」
思いっきり本を閉じる音が階段に響いた。その乾いた音のエコーを聞きつつ目を閉じる。結局変わらないみたいで安心した。いやそこまで信じてなかったわけではないけれど、心の隅で一抹の不安が微妙に燻っていたのだ。千鶴と要の言い合いを背に祐希もやがて、静かに漫画を閉じた。
「ゆっきーは何もないの!?」
「何って何が」
「驚きとか!」
「驚くも何も、最初から知ってたし」
祐希は漫画を自分の隣に置いてから、再び言葉を続ける。「いつになったらくっつくんだろうかと思ってたよ、俺は」なんと、祐希にばれているとは知っていたけれどやっぱりそれは前からだったのか、ってんん?前から、私だけじゃなくて?ぎぎぎ、と効果音がつきそうなぎごちなさで首を悠太の方に向ける。悠太は口元を押さえて私から顔をそらしていた。
「…悠太、悠太さん」
「…なんでしょう冬子さん」
「まじ話ですか」
「そちらこそ」
「いやいやちょっと私の事なんていいから顔見せて」
「断固拒否」
「ええええ」
どうしても悠太は顔を見せてくれない。と思うと、悠太は何かジェスチャーをしていて、私は祐希に目線で助けを求めるも、目をそらされた。春あたりからは見えてるだろうに、バツが悪そうに「そ、そろそろ帰りませんか?」なんて言って、みんなその言葉に頷いてぞろぞろと帰って行くもんだから、私はそれに続くしかなくて。
「うわちょっとはやい」
「あーあーそれにしたって冬子とゆうたんが!!夏祭りから怪しいと思ってたんだぜ俺は!」
「違うあれはただ怖かったからで、…げ」
「えっ冬子怖かったのかよあんなノリノリだったくせに!?」
「やっちゃったわー…」
まさか、自ら墓穴を掘る事になってしまうとは。なかなかままならない感情をどう抑えたものか。さっきの話についてわいわいと騒ぐ千鶴を適当に流しながら、自分の前を歩く双子を見る。祐希は、私が悠太と付き合う事に対して、本当に何も思ってないのだろうか。自分の兄が、ずっと自分も遊んできた幼馴染と付き合う事に、何も?と思いながら凝視していると、くるっと祐希が振り向いた。
「一応言っとくけど」
「なに祐希」
「俺の兄なのでね」
その言葉に含まれている意味合いを理解するまでにはそう時間はかからなかった。つまりあくまで悠太は祐希のものであり、お前には渡さないぞと。そういう意味合いらしい。
「ふ、ふふふ…」
「うわ、わわわ冬子ちゃん大丈夫ですか」
「上等、だったら奪い取るまでですよ私がね!」
「ほほう」
「うわーやっべ!冬子男前!」
「…おい悠太あの二人どうすんだよ」
「はあ…本当にしょうがない」
後ろから悠太の呆れたような声が聞こえたけども、私と祐希はまだ言い合いを続けていて、その争いは段々エスカレートしていって、結果的に悠太の好きなところやしてくれた事をあげる対決に変化していった。
「本を買ってくれる」
「私だってお菓子買ってもらった!」
「ノート見せてくれる」
「わ、私だって勉強会の時に課題見せてもらったし」
「お二人さん」
「う、わちょっと」
悠太が祐希の手も私の手も取って上に上げた。「そこまでにしときなよ」と、言うもんだから私と祐希は致し方なく、お互いに目を合わせてふいっとそらした。やがて祐希の手は離されるが、私の手はいつまで経っても離されない。そして手は下ろされ、そのまま悠太の握ってただけの手は恋人つなぎへと。思わず二度見してしまった。
「ゆ、悠太?」
「せっかくだからね」
「せっかくって何!」
後ろに居る要から「おいコラいちゃつくな」、なんて声が聞こえてきた。祐希からのじとっとした視線も感じる、けども手が熱い。顔も熱い。どうしたって悠太には敵わないけれど、 いつか絶対逆転してやる、と、
まだまだ終わらない暑い夏の、新緑の道を歩きながらそう思った。
131028