小説 | ナノ

「先輩?珍しいじゃないですか、そんなに外すの」

「…木ノ瀬うるさい」

「何かあったんです、か」



木ノ瀬が言葉を区切らせたのは他でもない、木ノ瀬の隣の犬飼も今日やけに外しているからだ。木ノ瀬が交互に私と犬飼を見て首を傾げているのが目の端に映る。同時にこういう時真っ先にこっちをからかいそうな私が犬飼の方を見向きもしないというのは未だかつてないと言っても過言ではなくて(逆も然り)、そんなお互いにぎくしゃくしている私たちの様子を特に木ノ瀬が見逃す筈もなく。視線を感じつつも、私は部長の方を向く。



「部長、すいません。ちょっと」

「うん、そうした方がいいね。佐々木さん行っておいで」

「…ありがとうございます」


というわけで、少し休憩をもらったので弓道場から少し離れた木陰に腰掛ける。ここなら誰も来ないだろう。寄りかかって目を瞑る。あの時、昨日喧嘩した時に、ごめんねって謝っとけば良かったんだろうか。どう考えたって私が全く悪くないなんて結論には至らなくて。謝らなければいけないのは明白だ。と思いつつ目を閉じる。

夢を見た。あの鮮やかな緑色が私から遠ざかって行って、私はそれを必死に追いかけるけれど、どうしてだか追いつけなくて。そのうち足がもつれてこけてしまって、立ち上がろうとするけど何故か足が動かない。どうしようと思ううちに、どんどん遠ざかって彼は見えなくなっていって。


「…、!佐々木」

「…え?」


それを声が、現実へと引き戻してくれた。うっすらと目を開ければ、目の前にあったのは夢にでてきたその人で。柄にもなく嬉しくなっちゃったりして、黙って正面きって彼に飛びついた。犬飼は「んだよー」とか何とか言いながらもそれを振り払うことはしなくて。


「怖い夢見た」

「そーかそーか」

「犬飼、怒ってる?」

「本気で怒ってたらお前なんか振り払って帰ってるけどな」

「ごめんね、」

「気にしてねーよ、こっちこそ…悪かった、な!」


お互い様、ということか。犬飼の謝る時の罰の悪そうな顔とか、そんなに見れる機会はないだろう。そう考えるとこの喧嘩も悪いことばかりでは無かったのかなあ、とか。でももうあんまり喧嘩はしたくないなあ。いい気分じゃないし、もやもやしたまま頭もうまく回らない。なんて考えている私に、思い出したような声が降ってきた。


「なあ佐々木、もう休憩終わってんぞ」

「早く言え馬鹿!」


130131

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