小説 | ナノ
「寒いねー」
「ああ」
ブレザーを着ていても寒い1月、暖房なんてない冷え切った教室で紙パックのミルクティーを飲む。温かいのを買えば良かったなんてぼやきながら、冷え切ったミルクティーで少し冷たくなった手のひらに息を吐きかけた。教室に居てこれだから、これは帰りはかなり寒いだろう、何となく憂鬱な気持ちになる。夏は暑いから嫌いだけど、かといって冬の寒さが好きな訳でもないのだ。
「鈴木ー」
「んだよ」
「まだ日誌書き終わらないの?」
「うっせえ黙って待ってろ」
「さいですかー」
伸びをして、暇なので内容量が350mlとかかれている紙パックの成分表をじっと眺めてみる。そんなことをしても目に入った成分の名前たちは頭に残ることなく、目を離した途端にぽーんとどこかへ飛んでいった。携帯を開いてみるけどだれからもメールも来ていない。私がはあ、と息をついた途端にぱたん、と日誌を閉じる音。とそのあとに鞄を持って席を立ち上がる音が耳に入った。
「帰っぞ」
「あ、うんちょっと待って」
「急げよ」
「待たせといてそれなのー?」
「るせ、それを言うならお前だって待ってたくせに準備が出来てないだろ」
「うっ」
確かに彼の言葉は正論であった。反論の仕様もない。ので何となく悔しい気持ちになりながらも、そそくさと出て行く鈴木の背中を追いかけた。廊下に出るとここもひやり、と冷え切っている。どこもかしこも暖かくないなあなんて思いながらも五時過ぎで既に薄暗い外へと出た。部活生たちの掛け声なんかを背中に聞きながら、お互いに家へと足を早める。口元までを覆っているマフラーから出ている鼻の頭が冷え切っているのが何となく分かる。
「おい」
「ん?なに」
「カイロ貸せ、さみい」
「えーやだ」
「……」
「鈴木のがあったかいでしょ、ズボンなんだし」
「じゃあてめえがスカート長くしろよ」
「それもちょっとなあー」
「ちっ、中学の時はドがつくほどに真面目だったくせに」
「ほらー高校デビュー?とかいうやつですよ、鈴木くんよ」
そう言うと、うざったそうな顔をされた後に、溜息までつかれてしまった。これは完全に呆れられている。苦笑いを浮かべながらカイロを取り出せば、ひょい、とカイロを取り上げられた。みれば勝ち誇ったような顔。うわあむかつく。
「返せしばか」
「返したら俺の手が凍る、てかお前十分あったけえだろ」
そう言われて鈴木の手の甲を私の手の甲に押し付けられる。あまりにも冷たくて思わず手を引っ込めた。水を触ったみたいなそんな冷たさで。これならカイロがいるわけだ。しょうがないなぁ。と笑った息は白い。にしても寒いもんは寒いので、自分のブレザーのジャケットのポケットに手を突っ込む。それから、グレーのマフラーに顔を埋めた。
「んな寒いのかよ」
「…まあそこそこ」
「……」
鈴木は黙ったまま近くの自動販売機のところまで行く。そして何かをピッと押した。出てきたのを鈴木はこれまた無言のまま取り出して、こっちに投げてきた。なんとか落とさずキャッチに成功。みればそれはホットココアで。それやるよ、カイロと交換だ。と言った鈴木を見て、思わず笑い声が漏れた。何故って、その行為が似合わなすぎて。女子にココア奢るとか、いつも暴言吐いてるばっかの彼にはどうにも。
「チッ、やっぱ返せ」
「いやですー、温もりだし温もり。カイロはあげるよ、あとありがと」
「…そーかよ」
「うん」
なんとなく、なんとなく。感覚だけど、ココアを見つめていると顔がじわりと暖かくなっている気がする。吐き出した息はまだ白い。それが、ココアに恋してる訳ではない事くらい、私だって知っている。
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