小説 | ナノ

本日晴天なり。そして池袋は非常に平和である。今日は珍しくどこからか破壊音と怒号は聞こえない。私は紙袋を提げてきょろきょろといろんな場所を見渡しながら人の波を縫うように歩いて行く。早いとこ見つけたいのに、彼を。私は彼みたいに匂いで人を感知できたりしないので頼るのは聴覚と視覚だけだ。でも声はしないしあのやけに目立つ金髪バーテン服も目には入らない。となるとやはり事務所だろうか。

携帯に電話をかけたらいいのにと思うかもしれないけど、彼はつい先日携帯を誤ってぶっ壊したばかりなもので。どうしたものか。





「来訪いただいたのに申し訳ないですが、先輩は今日は休暇です」

「うげ、まじすか」


事務所に出向いてみたらこういう事態だったらしい。教えてくれたヴァローナさんにお礼を言って事務所を後にした。ていうか家にいるだろうしちょうどいいや、家電に連絡を入れてみよう。と思って携帯で家電にかけてみるも、暫く経っても出ないまま留守電に切り替わった。寝てるのだろうか。まあどちらにせよ、家に出向かないと。





インターホンを二回程鳴らせば、ドタンバタンという音とともに、ガチャンという音。そしてインターホン越しに聞こえる少しかすれ気味の声。彼の家は意外にも設備が整っていて、インターホンから来客の顔は見える。そのため、ああお前か、という声と共にガチャンとオートロックは開いた。そして小さくお邪魔します、をいいながら中に入れば、まだスウェット姿の静雄がリビングに居た。どうやら寝起きらしい。


「事務所にも行ったんだけどさー今日休みって聞いちゃって」

「あー、そうだな」

「てか静雄あんたさっさと携帯修理」

「出した」

「あ、そ。まあどちらにせよ返って来てないならいいやー…てか今起きた?」

「おう、わりぃ。寝てた」

「いーよ、押しかけたの私だし。おはよう」

「…はよ」


そして持ってた紙袋をずい、と彼に渡す。驚いたのだろうか、目をぱちくりとさせてその紙袋をまじまじと見つめていた。そしてすん、と何かを匂う動作をしたあと、一言発したのは、「プリン」。見事に正解である。犬か。


「手作りか?」

「すごいね野生の勘、そだよー」

「え、おいこれ」

「あげる」


その後に誕生日おめでとう、と付け足せば静雄は少しの沈黙の後に、プリンと私を交互に見比べて、ぎこちなさげにありがと、な。と言ってそしてふっと笑った。私は彼のこの笑顔が好きだ。ていうか毎年祝ってんのに、いつまで経っても慣れないのか。ああでも。このくらいの事でどきりとしてしまう私もいつまでたっても慣れてない。


「そういや静雄、お昼食べてないよね?」

「あ、おう」

「一緒に露西亜寿司でもいかない?」

「!ああ、行く」


静雄は私の言葉に対して嬉しそうにこくこくと頷いた。多分露西亜寿司に運良く門田たちが行ってたらそこでも静雄はきっと祝われるだろうし、セルティ辺りが道を走って、気付いたらそこでも祝われる。新羅あたりも誕生日の電話かメールくらいよこしてくるだろう。他にも多数、静雄におめでとうを言ってくれる人は居るだろう。今日君が、去年までよりも沢山の人におめでとうを貰えますように。


130128
静雄ハッピーバースデー!

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