小説 | ナノ

「ただいまー」



なんて言いながら無駄に広さのある一人暮らしの家に帰り着いて、電気を付けてはいつも連れてるポケモン達をボールから出す。そうしてちょっと休憩したあと風呂に入る。いつもの通りの日常のはずだったのだ。しかしそれは叶わなかった。ちょうど風呂から上がって髪を乾かしてた時のこと。唐突に電気のブレーカーがぶつんと落ちたのだ。いつもは落ちないというのに。というか電気とドライヤーしかつけてないのに普通は落ちない。ということは恐らく原因は。私は急いで服の上にカーディガンを羽織って家を飛び出した。



「デンジ!」



ジムの裏口を思いっきり開ける。ゴーグルをかけて工具を持っている腐れ縁の男はまたお前か、と言うような顔をした。このナギサではこいつの改造癖による町の停電はわりと頻繁に起こるし、ある意味日常茶飯事だ。でも私は毎回起こるたびにこいつの居る場所に駆け込むのだ。それはさておき、今回は何をやろうとしてたのか。目で訴えればため息をつかれる。



「お前も飽きねえな」

「こっちの台詞だっつの馬鹿。超寒いんだけど髪」

「知るか」

「うわ」



三文字で一蹴されてしまったので、デンジの作業の様子をじっとみてみる。そうこうしているうちに、やっと電気が復旧したようだ。本当はこれで帰ってもよかったんだけど、なんとなく名残惜しくてデンジの作業の続きを眺めていた。こうしてみていると、なかなか面白い。



「お前、帰らねーの」

「もうちょい」

「はあ?…ま、いいけど」

「これ以上ジムどうするつもりなのさ」

「お前には関係ねーよ」

「ならいいや」



そのまま、静かに気の済むまでデンジの作業を眺めて、ふと上にかけてある時計をみれば、ここに来て1時間が経過していた。そろそろ帰らないと。半乾きの髪も乾かさないといけないし。風邪を引いてしまう、のは嫌だからいまのうちに。



「私そろそろ帰る」

「おー」

「ああそうだ、明日暇?暇ならうち来ない?お昼ご馳走したげるよー」

「気が向いたら行く」

「んふふ、じゃーね」



手を振る。振り返されないけれどいつもの事だ。それと、「気が向いたら」その言葉が彼にとっては断る意味ではなく、行くという事なのもまた、いつもの事だ。さて、明日は何を作ろうか。そんな事を考えると、自然と顔がゆるむ。



130113
なんでもない日常

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