夢を見た。すごく見知ったある男に追いかけられる夢。手が伸ばされて捕まりそうになったところで目が覚める。どうやらメールの音だ。その内容を見た私はただただどうしよう、という気持ちに心がじわじわと不安で満たされていく。


春の生ぬるい風がこんなにも不快に感じることが今まであっただろうか。朝、何も知らない親からのメールに思わず目を細めた。私の幼馴染がこの星月学園に来るだとか言う事らしく。思わず今日体調不良ということにして休んでしまいたかった。でも、そうすると知り合いやら同じ生徒会の人たちやらがうるさそうなので、メールを見る前より気分的に重たくなった身体を引きずるように起きた。朝食は、…まあ、いいか。



「おはよー」

「おはようございます!」

「おはようございます、結先輩」

「よう、結」



今日、生徒会は入学式の準備のために早めに体育館に入って、司会進行の打ち合わせなどをするのだ。結局ご飯を食べないままだったくせに、私が一番最後に来た。なんでこの三人はこんなに早いんだろうか。最初提示された集合時間にはまだなってないのに。



「…あー、入学式やだな」

「結先輩が入学するわけじゃないでしょう?」

「や、それがね。ちょっとした顔見知りが入学するっていうもんだから」

「お知り合いですか?」

「うん…だったらよかったのになあ」



最後の一言の呟きは誰にも届くことなくぱちりと消えた。というか、咄嗟にでた言葉だったので誰かに聞こえてないか心配だったが誰も気づいてなくて良かった。






盛大な拍手と共に入学式は開会され、思っていたよりも自分の中では短い時間だったように感じる。と言うのも、一樹くんが会計に指名した一人の名前について考えを巡らせていたからである。天羽翼。小学生の時に腐れ縁のあいつと遊んでいた時に偶然にも居たあいつの従兄弟がそんな名前だったような気がする。私の間違いでなければ。なかなか面白い男の子だったのでよく覚えている。多分姿を見たらすぐに分かるんだろうけど。



「さて、帰りますかねー」

「待て待て待て!お前まだ生徒会の仕事が残ってるし天羽も呼んだから顔合わせもしないとだろうが!」

「あーそういやそうだったね、なんなら私が呼んでこよっか?」

「…絶対そのままばっくれんなよお前」

「心配なーい、じゃあね」







うわ、なんとなくの不安要素が現実になった。天羽はなんとなんと、明らかに生徒会室ではない方向へ足を進めていた。というか帰ろうとしていた。そりゃあねえだろうよ一年よ。



「天羽ー!」

「げっ…え?」

「は?てかあんた帰んなし」

「…会ったこと、あるか?」

「敬語」

「ぬぬ…会ったことあります、か?」

「あるね、なんとなく覚えてる」



天羽と昔会ったことがあるというのは私の勘違いなんかではなかったらしい。まあしかしあの頃の記憶からは随分と背が伸びたことで。まあ当たり前だけど。なんて感心していると後ろから聞こえる聞き覚えのある声。



「誰かと思えば、年下に手出してどうするんですか高梨先輩」

「ほー?そういう口聞けるようになったんだ木ノ瀬梓くーん?」



でも声色だけで、その声の主が誰なのか、判断はついた。すぐに振り返ってこめかみをぐりぐりとしてやる。ちなみに私の身長は165と結構高い方であり、どういうわけだかこの幼馴染と目線が一緒である。少しくらい伸びたかと思ってたけどまだ目線が一緒くらいだなんて。ところでこれだけ見ると仲良しの幼馴染に見えるけど、実は大きな溝が空いているのだ。表にはまだ露見してないけど。



「痛いですよ、それと冗談も見抜けないほど頭悪くなったんですか高梨先輩」



ほら、ここで見える溝。前は敬語なんか使わなかったし先輩なんて呼ばなかったくせに。あと前より態度が冷たくなった、というかそんな気がする。



「うっさいばーか、天羽ー、最終的にこうされたくなかったらついておいでー」

「ぬぬぬ…」



なかなかにこれは効果的だったらしい。動物がエサにでも釣られるかのようにふらふらともと来た方向へ彼は足を向けた。どうやら来てくれる気になったらしい。私はようやく梓の頭から手を離す。



「て、いうか高梨先輩が生徒会入ってるなんて僕知らなかったですよ」

「教えてないしね、まあそれじゃそーいうわけでさよなら梓、そして天羽いくぞー」



はいはい、と梓は肩をすくめて笑っていた。多分その笑顔は私に向けたものではなくて、引きずられていく天羽に向けられたものなのだろう。その天羽は名残惜しそうに梓の方をちら、と一瞥したものの、黙って私についてきていた。沈黙は続く。もしかして怖い先輩だと思われてるんではなかろうか。それは困るなあ。この沈黙を破るために何か話題を探さなければ。



「天羽はさ」

「?」

「何科なの?」

「宇宙科だぞ…です?」

「いーよ、別にタメ口でも。あれはどうせノリで言っただけだし」

「え、あー…分かったのだ」

「はは、そんな借りてきた猫みたいにならずとも大丈夫、怖い先輩なんて居ない?…から」

「おい」

「げ」



てっきりおとなしく部屋の中で待ってるものだとばかり思ってたら一樹くんは部屋の前で仁王立ちして待ってたものだから、びっくりした。つか怖い先輩なんて居ないって言った途端にこれて。狙ってんのかと思ってしまう。



「あー…じゃあ私はこれで!」

「おいこら顔合わせだって言っただろうが」

「そうでしたはい」



くそうやっぱりばっくれとけば良かった。


130312



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