※以前やりたいやりたいって喚いてた某ドラマパロ。何のドラマかはタイトルから察してください。
※何の説明もなく始まります。元ネタ知らない方は是非本家をぐぐるか見るかしてください。多分タイトルの頭文字4つを検索すれば出ます。
※配役は見ればわかるので書きません。主役二人が赤緑です。二人とも刑事。
※習字してるという以外原型とどめてませんのでご注意を!






筆が踊る。比喩ではない、本当に踊っているのだ。
毛筆に染みる黒、黒、黒。硯に溜まる、丁寧に磨られた墨汁は、深く濃い夏の闇を想起させる。
グリーンが持つ筆は、大胆かつ壮絶な動きでもって、レッドの視線を引きつけた。筆を持つ指だけでなく、二の腕や背筋、鎖骨、大腿部、正座して積み重なった両足のつま先に至るまで、全身をあますことなく使い、躍動感溢れる文字を生む。白布で吊った左手を意にも介さず、自由な右手で巧みに書き記す。美的感覚に自信のないレッドでもはっきりとかる。これは、美しく洗練された所作だ。

よくよく見ると、使い古された文鎮に年代ものらしきネームシールが貼ってあった。恐らく幼い頃から日常の中に習字があったのだろう。そうだとすれば、この豪快なくせにどこか優美な筆運びにも合点がいく。習字のことはよくわからないが、これは一朝一夕で会得できるものではないはずだ。
グリーンの字は、小学校で習字の先生が示すお手本や、大会で賞をとれるようなそれとはまるで違った。もちろんかっちりした楷書ではないという理由もあるが、それよりも、もっと明確な差異がある。そう、何と言うか……。

「(生きてるんだ)」

グリーンの文字は生きている。レッドは確信を持ってそう思った。半紙に描かれたのは最早平面の世界ではない。何らかの意志を持ち、今にも動き出さんとする、新たな生命体なのだ。間近で見ているレッドにはわかる。半紙に向かうグリーンが墨を引いていく傍から、奔放な文字たちが紙面を飛び出し眼前に浮かび上がってくる気さえする。

『毒殺』

艶やかに最後のはらいを書くと、グリーンは硯の上に筆を置いた。文鎮の下から、墨で湿ってしわの寄った半紙が引き抜かれる。書き終えたそれは机の空いたスペースに適当に放置され、布の下敷きの上にはすぐさま新しい半紙が広げられる。半紙のしわを綺麗に伸ばし、右上と左下に鈍く光る文鎮を乗せて、グリーンが一つ、息を吸う。

再び筆が舞った。とめ、はね、はらい。それらすべてが野性味溢れる荒々しさで紙の上に現れ、またひとつ生命が誕生する。文字が息吹くさまなんて、27年間生きてきて初めて目にした。
価値観の一部を破壊され苛立たしいような、固定観念から解放され嬉しいような、内在する不可解な矛盾に、レッドは無言で眉をひそめる。混濁した感覚は不快ではない。むしろ不思議と心地よく、清々しささえ感じる。

半ば魂が抜かれたような状態で、レッドは静かに文字が生まれる様子に見惚れた。この筆を振るっているのが変態バカだと言う点だけは非常に腹立たしいが、それを除けば見事なものだ。流れるようにふるわれる腕は男のように力強く、大雑把にも見える筆致はその実とても繊細である。悔しいが、文句のつけようもなくうつくしい。気づくと視線は吸い寄せられるように雄渾な筆先へと注がれ、意識はいつのまにか右手の動きを追っている。

とめ、とめ、はらい。柳の葉が落ちるときに似た優雅さで、文字の一画一画が半紙を埋める。

目を奪われるとはこういうことかとレッドが理解したとき、流麗な筆さばきが、何かに流れを堰き止められたかのごとくぴたりと静止した。書き手の変人は何か考え込む風で顔を顰め、口をへの字にして黙り込んでいる。何をそんなに憂うことがあるのかと書き途中の字に目をやると、筆は4文字目を記す直前で立ち往生していた。

『心臓麻』

「……書けないなら書くな」

呆れながら言うと、うるさい、とでも言いたげな鋭い眼光が飛んできた。剣呑な視線を受け流し大きく溜息を吐く。
文句を言いたいのはおとなしく観覧していたこっちの方だ。そう言ってやりたかったけれど、口にするのは癪だったので黙っていた。
そもそもこんなことを言えば、「俺の筆さばきに見蕩れてたのか?」とかなんとか言って、奴が調子に乗るのは目に見えている。災いの元と言われるほどだし、口は開かないに越したことはないのだ。こんな変態相手ならなおさら、黙っていた方が得策というもの。

「(しかし……)」

IQ201の頭脳を持つ秀才が、心臓麻痺の『痺』が書けないのはいかがなものか。
閉口しようと心中で誓ったばかりのレッドが思わず溜息を吐きそうになったのとほぼ同時に、黒く滴る筆先が行動を再開した。心なしか先ほどより動作が大きい。麻痺の『痺』の書き方でも思い出したのかと覗き込むと、そこにはレッドの予想斜め上をいく一際濃く太く字が書かれていた。

『心臓麻ひ』

……馬鹿か、本物の馬鹿なのか!
ひらがなで書かれた麻痺を見て頭を抱えるレッドをよそに、グリーンはふん、と鼻息を立てて得意気な笑みを浮かべた。恐らく、書けないなら書くなという発言を受けて「ほれみろ書けただろ」とでも言いたいのだろうが、あまりの幼稚さに言葉が出ない。

レッドが馬鹿馬鹿しさに閉口している(させられている)間に、でかでかと『心臓麻ひ』が書かれた半紙は取り去られ、グリーンの前には新しいが敷かれていた。脆く薄い紙の上には、また違う文字が踊り始める。

『脇先生』
『レモン』
『2億円』

今回の事件に関連するキーワードが見る見るうちに半紙にしたためられていく。
最後に『注射器』と書くと、グリーンは6つのキーワードが書かれた半紙を片手で束ねて、足下に踏まえた。6枚の半紙の左側を右足で踏みつけたままの格好で、半紙の右側を掴んだ手が力いっぱい引かれる。
あ、と声を上げる間もなく、半紙はびり、と悲鳴を上げて無残に破れた。

同じ要領で、半分の半紙がさらに半分に、半分の半分の半紙がさらに半分に、とみるみるうちに小さくなる。びり、びりり。破ける音が数回続いたかと思うと、生きた文字に埋めつくされた紙は、最終的には名刺以下の大きさになってしまった。あの雄大な字を書いたとは到底思えないような骨ばった指が、慣れた手付きでばらばらの半紙を一絡げにする。

グリーンの瞼がゆっくりと閉じた。伏せられた睫毛の下に濃い影が落ちる。

紙の束を握ったグリーンの右手が、振り子のように大きく前後に揺れたかと思うと、力強く上へと放られた。荒々しくて大雑把で粗野な動きであるのに、舞いを。あいつの動きのどこにそんな魅力があるんだ、と自身に問うても返事は返ってこない。ただ息を殺してその姿を見つめるのが精一杯だ。
柳のようにしなり、真っ直ぐ天に伸びた右手から、先程千切って絡げた半紙の束が舞い散った。グリーンが白と黒の紙片に囲まれ、時間は驚くほど緩慢に過ぎて行く。

その瞬間確かに、世界はグリーンとそれを眺めるレッドだけになり、静かに静かに外界から断絶した。
舞い落ちたはずの紙は空中に留まり、腕を上げるときに振り乱された髪の毛もまた、乱れた状態で止まっている。レッドの瞼は見開かれたままだというのに、眼球が乾燥して痛む気配もない。ぐりーん、とレッドがなんとか名前を呼ぼうとしたそのとき、再び世界は動き出した。

「ーーいただきました」

呟くような小さな声が、世界を動かしたのだ。見ると声の主は、閉じていた目を開け、唇で弧を描いて、足元の千切れた言葉たちを従えている。少し満足気にも見えなくもないその表情のまま軽い足取りで机に向かうそいつに、さっきのはなんなんだ、とか、紙を片付けろ、とか、言いたいことがいろいろあるのに、呼吸が行き来するだけで、なぜか言葉は出てこない。再度正座して半紙と向き合ったグリーンは、レッドの方など見もしないで、硯に置かれた筆をゆっくり手に取った。目の前の白面に新たな一石を投じようとしているのだ。

墨を吸ってふくよかになった筆先が、柔らかい音を立てて半紙に沈んだ。黒が描く軌跡を、言葉を無くしたレッドは息を殺して刮目している。

滑らかに筆を走らせ一通り書き終えると、グリーンは『心臓麻ひ』と書いたときより得意気な顔で、書いた文字を読み上げた。



『犯人はーー』




SPEC
(俺にも、もしかしたらお前にもあるかもしれねえぞ?)
(未知のspecが、さ)


******
そんな訳で書きたい書きたい言ってたSPECパロ。書きたいとこだけ書きました感すげえ。そして原作知らん人には心底意味不ですよね申し訳ない。
そんで何より申し訳ないのが、これ赤緑じゃないってことだよね!! ごめんなさい!

にのまえ役の嫌みなトウヤ君出したかったのに、「いただきました」のシーンじゃにのまえ出てこないということに書き始めてから気づいたorz
ほんとはSPECぱろは長編でちゃんと書こうとも思ってたんだけど、めんどくさいので書きたいとこだけ書いてあげました←
にのまえなトウヤ君が出てくる話もいつか書きたいな。

ここまで読んでくださってありがとうございました!






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