休めよ、と思う。
どこまでも自分に厳しすぎる恋人に、俺は思わず溜息をついた。

ここ最近、俺の恋人は忙しくしていた。日中はブルーに買い物付き合わされたりゴールドに引きずり回されたり(※シルバー情報)し、夜は夜で昼にジムを空けた分溜まってしまった書類を処理する、その繰り返し。俺なら1日経たずに音をあげそうなメニューを、恋人は1週間殆ど寝ずに黙々とこなしたらしい。
そしてぶっ倒れたのだ。しかも、会いに来た俺の目の前で。
それを見た俺の心境と言ったら! 心臓が止まるかと思った。いや、多分一瞬は止まってたかも。
とにかくもうあんな思いはごめんだ。思い出しただけで鳥肌が立つ。

だから俺は倒れてもまだ仕事をしようとする恋人を何とか説き伏せて、無理矢理一日休ませた。最初は頑なに拒んだこいつも、今回ばかりは俺が退かないのが分かったらしい。最後には折れて、昨日は俺の言うとおりに一日中寝ていてくれた。

恋人が一週間分の睡眠を取り戻していた間に俺は何をしていたかと言うと、ブルーたちの相手も、書類の整理も、(皆に手伝ってもらいながらだけど)何とかこなして、少しでも恋人の負担が減るように頑張った、つもりだ。書類の整理に関してはあまり言及しないでほしい。

最近働きすぎな恋人を心配していたジムトレ達が、「一週間は休ませてあげて下さい」と気を遣ってくれたお陰でついでに休暇ももぎ取れた。これは俺じゃなくてジムトレ達のおかげ。

あとはこいつがきちんと休めばそれでいい、んだけど……。

「何でまた仕事してる訳……?」
「いくら今までの分はお前が片付けてくれていたとは言え、書類は日々溜まっていくからやるべき事は増える一方だ。お前が俺の代わりに色々こなしていてくれていた間に十分休ませてもらったことだし、この一週間はきりきり働く」

まるで『机が恋人』と言わんばかりにこっちを見もしない俺の恋人・グリーンは、それだけ言って口をつぐむと、また書類にペンを走らせはじめた。
こうなるともう万事休す。俺の存在は無に等しくなって、俺の声はもうグリーンには届かなくなる。
いっつもこうだ。仕事をし始めると、周りの音が一切聞こえなくなって、自分の世界に突入しちゃうんだよなあ。

「グリーン」
「ああ」

分かっているのに繰り返す。いつものことだ。
返事があるだけいつもよりましだと自分に言い聞かせて、また呼びかける。

「グーリーィーンー!」
「ああ」
「今何時?」
「ああ」
「おなかへった」
「ああ」
「今日はエイプリルフールだよ」
「ああ」

インプットされた言葉をただただ反芻するだけのロボットみたいに、グリーンは適当な相槌を繰り返した。俺は俺で、グリーンの気を引きたいから、突拍子もない話やグリーンへの質問をただただ繰り返す。今の状況を俺が客観視できたなら、二人ともだいぶ狂ってる、なんて感想を抱くんだろうな。だって不毛だ。こんな何のプラスにもならないやりとり。

「もうポケモントレーナーとかやめちゃおうかな」
「ああ」
「眠い」
「ああ」
「明日地球が終わるんだって」
「ああ」
「グリーン」
「ああ」
「すきだよ」
「俺もだ」
「うんそう俺も……って、え!?」

は?
今、あれ、ちょっとねえ、なにそれ。どういうこと?

恋人は相変わらずこっちを見ない。見ないけど、でも、いま。

「グリーン」
「ああ」
「すき、好きだよ」
「……俺も、好きだ」

やっぱりさっきのは、グリーン成分が足りない俺の生み出した幻聴とかじゃなかった。
そう分かった途端、適当な相槌を打つ時と同じように返ってきた「好きだ」に頬が緩みはじめる。いつの間にかペンが止まっていることに気付いて、ますますにやけた。気配で俺の表情を察したのか、怒った顔のグリーンがようやくこっちを向く。その口が何か言う前に、顎を掬って言葉を奪った。

「んっ!? ん、っふ……ンん」

ここ最近キスもおあずけだったからか、いつもよりかグリーンの反応がいい気がする。絡め取った舌が熱い。グリーンの熱はドラッグに似ている。少しずつ全身に回っていくその毒を、やたらと甘く感じた。

「っはぁ」

唇を離すと、俺を突っぱねるような光が目に飛び込んできた。きっ!と一心にこちらを睨み続ける翡翠の潤んだ瞳は、俺の唐突な行為を責めている。全く迫力のないその視線が、ただただ愛しい。

「このばか……!」
「ごめんって! グリーンがかわいいから思わず、な?」
「……ばか」

俺の言葉にグリーンが頬を染めて俯く。何だこれかわいい。そんでこんなかわいい『ばか』なら何回だって聞きたいなんて思うとか、俺はかなり末期のばかだ。

「なあグリーン、好きだよ、好き」

確かめるような、祈るような、とにかくもう一回言葉が欲しくて、強請るみたいに言う。

「ちょーだい?」

困ったように微笑んだグリーンは「今回だけだからな」と仕方なさ気に言い置いて、俺の望む言葉をくれた。

「好きだよ、レッド」


こだまでしょうか


いいえ、君です

******
タイトルだけはネタです!(`・ω・´)キリッ
そんな訳でスペレグリ。
とあるCMが頻繁にやってた時期に考えた話です。
その時期ちょうど人間関係が嫌になって現実逃避をしていたので、二次元に癒しを求める傾向がありました。
結果→大層 あ ま い )^q^(

性格とか口調とか設定とかその他諸々の捏造甚だしいですね、ごめんなさい!
しっかしスペグリーンたんマジイケメソ! デレ期がきたら1番デレデレになりそうですハアハア\(^q^)/

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