君が彷徨う。
待って、駄目だよ、どこ行くの。
声を張り上げても、君にはまるで届かない。いや、届いていて聞こえないふりをしているのかもしれないけど、そうだとしたら君はかなり嫌な奴だ。
君が嫌な奴だなんて今に始まったことじゃないし、君を引き留める義理なんか僕にはこれっぽっちもない。ただ、目の前で胸くそ悪いことをされたくないだけ、つまり僕のためであって、これだけは言っておくと、僕は君のために走ってる訳ではないから。
「Nってあたしの事大好きだよねえ!」
何言ってるんだ崖っぷちで。君が馬鹿だと思いはすれど決して好きだなんて思ってないよ。どこまでご都合主義な脳味噌を持ってるんだい君は。
「目も当てられないくらい、あたしに振り回されてるクセにー」
それは君がいつも僕の前で後味が悪くなるような事をするからだろ? 鉤爪を隠した猛禽類にそっくりな女の子を好きになる奴がどこにいる。と言うか、そんなこと楽しそうに言うな。
「ねえN」
「なに」
「あたしは、」
待って、駄目だよ、何するの。
声を張り上げても、君にはまるで届かない。いや、届いていて聞こえないふりをしているのかもしれないけど、そうだとしたら君はやっぱり嫌な奴だ。
「あたしはね」
黙れ黙れ黙れ! 頼むから口を閉じてよ。戻れなくなるの、嫌なんだ。
「Nのこと好きだよ」
あーあ、もう。
聞かなかったことには出来ない、よなあ。
「ほら早く、『僕も好きだよ』って言えば?」
どうして君はそう、気丈でいられるんだい?
この先僕らを待ち受けるのは、慣れ親しんだ関係性の瓦解のみだって言うのにさ。ほんと、君ってばかだ。
「N」
急かすように名前を呼ばれたその瞬間、僕はうっかり崖っぷちから君を救ってしまった。
「ちゃんと抱き寄せたって言いなさいよ」
煩いなあ、ほんとに、この猛禽類は。
「それにほら、ちゃんと好きだって言いなさい!」
君はどうせもうわかってるくせに。君の手に用意された解答の内容を僕に聞く必要は何処にあるのさ?
「出題者が、解答を知るのは当然でしょう?」
所詮マリオネットでしかないって言いたいの?
君の冷たい手のひらに踊らされて、いつも「自分のため」に糸を断ち切れずにいるお人形だとでも。
ああ違うね、君は猛禽類だから手のひらなんて無いんだっけ。鉤爪で器用に糸を操る猛禽類なんて初めて聞いた。
まあ猛禽類に睨まれているのに反抗する馬鹿もいないか。
「好きだよ、トウコ」
これで満足かい?
僕の愛しい猛禽類さん。
鉤爪マリオネット
「ええ満足よ!」
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や っ て し ま い ま し た!
調子こいてN白とか、ほんと申し訳ないです。なんだこれ。
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