見つめていたい。こっちを見てもらいたい。触れたい。誰にも触らせたくない。閉じ込めておきたい。殺してしまいたい。

「グリーンが望むこと、何でもしてあげたいんだ」

レッドは言う。

こんな望みも叶えてくれる?
こんな望みを聞いても、まだ俺のそばに居てくれる?
こんな望みを聞いても、俺を、好きでいてくれる?

答えはまだ聞けずにいるけれど、もういいかな。
このぬるま湯でふやけ続ける関係を壊しても構わない? 仕方ないよな?
だってもう疲れたんだ。思いを声にしないのも、自分に嘘を吐くのも。

なあレッド、怒らないで俺の話を聞いてくれないか。

「本当に何でも叶えてくれんの?」

***

何考えてるの。僕以外のこと?
僕だけしか見られないように、いっそ眼球を抉ってやろうか。
翡翠の双眸が僕の目の前に置かれていたら、さぞかし良い気分なんだろうね。ああ、何だか楽しくなってきた。
その眼球だけでいいから頂戴よ。君の目だけでじゅーぶんです。
ここでまるごと全部君が欲しいとか言わない僕って謙虚でしょ。だからさっさとこっちを見て、ねえ。

あまりにも凶暴な思考回路には、自分でも辟易してるんだよ?
僕だって本当はこんな願望棄ててしまいたい。
君がいる限り、それは不可能なんだけどさ。

欲望の発露と、言い訳と、責任転嫁の文句は、声にはならず、当然目の前の彼に届くかない。だからほら、彼の視線は相変わらず僕を捉えないままだ。

ああもう、いつまで遠くを見てるの。どこ見てるの。

いつになったら僕を見るの。

気を引きたくて「グリーンが望むこと、何でもしてあげたいんだ」なんて陳腐なことを言ってみる。お前がそんな事言うなんて、って馬鹿にされるかと思ったら、予想に反して彼は苦しそうな顔で僕を見た。助けてと言わんばかりの、もしくはお前のせいだと責めんばかりの表情が浮かぶ綺麗な顔。僕の身体の中で何かがむくりと頭をもたげる。駄目だ駄目だと言い聞かせながら押さえつける感情は今にも溢れてしまいそうな気がして、吐き気がしたし怖くなった。

「本当に何でも叶えてくれんの?」

頼りなく響いた彼の声を、何かが切れる音が追う。気がついたら彼の体温、呼吸、心音全部が近くにあった。
抱き締めた、と気づくまでに10秒。彼が泣いている、と気づくまでに25秒。彼の涙を舌で拭う自分に気づいたのはついさっき。泣くのをやめて呆然と僕を見ている彼と視線が絡んで、ようやく我にかえる。

「ご、めん」
「何で謝んの」
「急にこんな事して驚いたかなって」
「別に、平気」

会話はそこで途切れてしまった。中途半端に開いた距離は今の僕らの意識の違いを如実に表している。
いつもならグリーンとの間に流れる沈黙は嫌なものではなく、何か話さなきゃ、なんて息苦しさを感じる事は決してないのに。
こんなの初めてだった。生まれてこの方一番長い間一緒にいた相手なのにどうしたらいいかわからなくなるなんて。

「あの、な」

口を開いたのは、沈黙を作りだしたグリーンから。言いにくそうに、それでも伝えなくてはと彼が必死になっているのがわかる。何か言おうかと思ったけれど、思い直して彼が話してくれるのを辛抱強く待った。10秒、20秒、30秒。カウントしている自分に気付いて思わず笑う。

しばらくすると、意を決したらしい彼がぽつりぽつりと話し始めた。

「何でもしてくれるって…言ったじゃん」
「うん」
「すごく身勝手な願いだけど、言っても良いか?」
「うん、教えて」

何でもしてあげたいのは本当だ。彼が自分以外視界に入れるなと言えばそうするし、どこにも行くなと言えばずっと隣に居る。

「グリーンに死んでって頼まれたら何の迷いもなく死ねるよ。その程度の願いなら、叶えてあげる」

だからこの言葉は僕の本心。迷わず信じてくれて良いのに。

「俺がお前に『死んでくれ』なんて頼む訳ないだろ?」
「知ってる。ただの比喩だよ。僕には言葉が足りないらしいから、そんな風にしか伝えられなかったんだ。要するに、」
君が好きだよ。

僕がそれだけ言うと彼の目から涙がひとしずく頬を伝い落ちて、それからは堰を切ったように彼の口から願いが溢れだした。

見つめていたい。こっちを見てもらいたい。触れたい。誰にも触らせたくない。閉じ込めておきたい。殺してしまいたい。

「だから俺、お前とはいられないよ」

「 ……何を、言ってるの」

こいつはどうしてこう、肝心な所でばかなんだろう。
彼の話を聞き終えた僕の感想はそんなものだった。

「だって! 俺、さっき『死んでくれ』なんて頼む訳ないっつったけど、それよりタチわるいもん」
「何で」
「お前今の話聞いてたか? 俺はお前を殺したいって言ったんだぞ!」

自分で言いながら泣きそうになっている彼は、まだ気付いてないらしい。分かってもらうためにもう一度言う。

「だから、いいよ」 

ころしても。
僕の口から転がり落ちた言葉を、何の意味も持たない音として認知しているらしいグリーンは、しばらく何も言わずに僕の顔を見つめていた。

「おま、な、にいって」

やっと話し出したグリーンが何を言うかと思えばまた同じことの繰り返し。それはさっき僕が言ったじゃないか。

「だから、ころしていいよって言ってるの。グリーンより先に死ぬのも、グリーンのいない所で死ぬのもいやだよ。最期は、グリーンの顔を見ながら逝きたい」

だから殺してくれると言うのなら喜んで。それこそが僕の望みだ。傲慢かつ残酷なそれを、他でもない君が、受け入れてくれると言うのなら。

「ころしてよ」

僕をグリーンだけのものにして。

「愛しているなら、早く、早く、閉じ込めてよ」

くしゃり、
音を立てて歪んだ彼の顔が濡れる。しょっぱい涙を舐め取ってやると、彼がか細い声で何か言った。
耳を近づけると「好き」と弱々しく響く彼の声が聞こえる。

「すき、ごめん、すき」

ばかだなあ。何でそういうこと一気に言っちゃうのさ。

「ごめん、レッド」
すきになってごめん。

「僕もすきだよ」
だから、ねえ、もう泣かないで?

彼が頷いてくれると信じて、僕は彼の耳に言葉を吹き込んだ。

「すきだよ。だから僕の願いを聞いても、逃げないでね?」


堪え性の無い僕ら


我慢が嫌いなお年頃!

******
薄ら暗い赤緑。
がっかりな出来ですごめんなさい。

ほんとはこれより長々と続くはずでした。しかしあまりにウザいので強制終了。
小説ってどうしてこうも思い通りにならないんでしょうか?。・゜・(ノД`)・

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