昔から数えきることが得意じゃなかった。かくれんぼは1から5まで数えたら「もーいーかーい」だったし、数学は今回のテストでも堂々の赤点。そんなんじゃ買い物さえままならないだろって幼馴染は呆れてるけど、いいの。あたしにはあんたがいるでしょ。
「そんな訳だ、チェレン。あたしの所に永久就職して?」
「君は馬鹿か……!」
両腕を広げて告げたあたしの言葉に頭を抱えながらも、否定はしない幼馴染。それに気分が良くなったあたしは、馬鹿呼ばわりした生意気な唇をあたしのそれで塞いでやった。
こういうことに疎い初心な幼馴染はと言うと、顔を真っ赤にして口をはくはくさせて、まるで陸の金魚みたい。息も音も出てこない口になんの意味があんの、と笑ったら、きっ!と羞恥で潤んだ瞳に睨まれた。うわあ、効果ない上に意味もない。
「まちがい、だらけ、だっ!」
過呼吸のひとみたいに一生懸命なチェレンは見ていてたいそう面白い。けど、出てきた言葉にやっぱり意味はなかった。
「なにが?」
「永久就職、って、言ったり、だとか、キス、だとか」
「うん」
「女の子からする、ことじゃない!」
うん昭和のお父さん並みに頭がっちがちだよね、チェレン。ジェンダーって言って、そういう発言は差別になるんだよ? 今時男も女もないんだって。
どれからまくし立ててやろうかと脳内で吟味していたら、チェレンが言葉を続けた。
「そういうのは、僕、が、言うべきだろ!」
え、何それ。
瞬時に頭真っ白、フリーズ、強制シャットダウンしかける身体を何とか足二本で支える。
ばくばく五月蝿い心臓なんかいっそ止まっちゃえ。そう思って握った、盛大にシワになっているだろうパーカーの左胸から、じわじわと熱が広がっていった。はくはく。今度はあたしが金魚になりかける。
もちろんあたしはそんな風にならずに、堰き止める暇も無く思った事が口からこぼれ出ていったのだけれど。
「僕のところに永久就職してくださいとか、僕の作った味噌汁毎朝飲んでくださいとか、そういうこと全部ぜんぶ、チェレンが言ってくれんの?」
「そこまで言ってない!っていうか味噌汁のくだりは君が言うべきじゃないのか?」
「味噌汁なんて、っつーかそもそも料理なんて作れないもん! いいの、それもあたしのところに永久就職したチェレンがやるから!」
「ああもうだから!トウコが!僕の!ところにくるんだろ?」
幼馴染はイライラしながら、それでも欲しかった模範解答をくれた。いや、もう幼馴染じゃないのかな?
「チェレンは嫁。それは譲れないから」
とりあえず、そういうのは男が、とかまた言いだす前に、かわいいかわいいこいびとの口を塞いでしまおうか。
ミクロンな過ち
世間体とか、一応あたしも気にする方なんだけど、不思議ね、君といると全部どうでもよくなっちゃう。
あたしと君。
その他のしがらみや懸念はミクロン単位でしかなかったのね。
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主♀チェレ。マイナーですねわかります(^q^)
もうちょっと短い話にしようと思ってたのに玉砕しましたorz
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