温かな夜に


泣きやんだ雨雲の隙間から
少し欠けた月が微笑んでいます。


-わたしと貴方の二ヶ月間。-


「・・・あの、わたし、


記憶がないんです。」

カタカタと少し震え出した
自分の指先を隠すように
ココアの入ったマグカップを
そっと机へ戻す。

言ってしまった。
もう後には戻れない。

そんなわたしの不安とは裏腹に
彼らは驚きの表情を一瞬見せた後、
可笑しそうにケラケラと笑いだした。

「あ、あの・・・」

「ごめんな!!笑うつもりはないんやけど!」

「ご、ごめん!!でも、ちょっと
それは冗談キツイっていうか!」

ひとしきり大笑いをし終えてから、
ふぅとそれぞれにため息をついて
彼らはわたしをじっと見つめた。

「まぁ、どういう事情かは知らんけど
とりあえず名前も住所も知られたくないって事やな?」

「え、いや、あの、」

「だからって記憶喪失はないでしょ、記憶喪失は!」

「違うんです!わたし、本当に、」

「ええやん、帰りたくなるまでここに居ったら。
まぁ、自分の家じゃないですけど。」

「俺んちなんですけど。」

まぁええじゃないですか、と笑うその人に
彼は最初こそ困った顔をしていましたが
小さくため息をついてからまた笑った。

「とりあえず、この調子やと
録画は出来そうにないんで帰りますよ。
明日、また来ます。」

「あー、そうね。てゆか、そもそも、
うちに連れ込んだのはお前なんだけど。」

「いや、自分、実家暮らしなんで連れて帰れません。」

「お前、なめてんな。」

「いや、なめてないです。
でもまぁ、乗り掛かった船なんで・・・
別に大した力にはなれませんけどね。」

じゃあ帰りますわ、と言うと、
その人は部屋を出て行ってしまった。



「服とか、何もないんだけど・・・どうする?」

「あ、あの・・・わたし、本当に
ここでお世話になっても良いんでしょうか。」

「え?良くないよ?」

さらりとそう言われて、
わたしはずきりと胸が痛むのを感じる。
けれど、よく考えればその通りだ。
犬や猫を拾うのとは訳が違うのだから。

「まぁ、良いわけないんだけど、
拾っちゃったものは仕方ないでしょ。
あ、とりあえず服はこれでいいかな。」

はい、と手渡されたスウェットは
彼が着るには少し小さそうなものだった。

「妹が忘れてったんだよね。丁度良かった。」

「・・・ありがとうございます。」

申し訳なさを感じながら、
わたしは再び脱衣所に向かった。


窓から覗く月は少し欠けていて、
それでも柔らかくこちらを照らしていた。


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