言葉の温もりを


降り続ける雨は、
少しずつ暖かさを増していきます。

-わたしと貴方の二ヶ月間。-


「か、かえるじゃありません!」

目一杯叫んだわたしを
2人は遠慮なくマジマジと見つめてくる。
なんとなく気恥ずかしくなって俯くと
さっきから聞こえていた声で、
1人がこちらに話しかけてきた。

「お嬢ちゃん、何でこんなとこに居るん?」
その人は独特のイントネーションと
その低い声で、優しくわたしに話しかけた。
隣の彼は、少し眉をひそめながらも
その人に対するわたしの反応を
窺っているようだった。

「え・・・っと、」

一体、何と切り出せばいいんだろう。
わたし自身、自分が置かれている状況に
不安や焦りを感じて動揺しているのに・・・
強がって「大丈夫」と膝を抱えても、
きっと、心のどこかでは
「誰かに声をかけてほしい」と、
願っていたはずなのに。

けれど、いざとなると言葉は出てこなくて
ただ口をパクパクさせることしか出来ない。

「あの・・・えっと」

必死に言葉を探しているわたしを
2人は何も言わずに、ただ黙って見ている。

「その・・・!」

あたふたするだけのわたしの頬に
突然、そっと彼の手が触れた。

もちろん、すっかり冷えたわたしの体温に
彼の体温が馴染むことなどあり得ない。
ただ、じんわりと
其処から広がる温もりに
わたしは徐々に
落ち着きを取り戻していった。

きっと、彼が想像していた以上に
わたしの肌が冷たかったのだろう。
彼は一瞬、ぎょっとした顔をしてから
私の頬に触れていた手を戻し、静かに言う。

「・・・家出とかじゃないの?」

「っい、家出じゃありません!!・・・多分。」
家出ではないだなんて、
そんな確信はないけれど
なんだかあまりよろしくない
その言葉の響きに
わたしはとっさに
声をあげて否定した。
わたしが言葉の最後に付けた
「多分」に反応したのか、
彼は眉間に寄せた皺を濃くする。

「多分って何、どういうこと?」

「まぁまぁ、そう怖い顔せんでも。
・・・君、家に帰る気は?」

「っ、帰れるのなら帰りたいですけど・・・」
残念ながら、今のわたしには
帰る場所も方法も分からない。けれど、記憶がないだなんて
信じてもらえるだろうか。
わたしの勝手な憶測では、
記憶を失くす前のわたしなら、
こんな夜中にずぶ濡れで座り込む少女に
声をかけるなんてことはしないだろう。
いつだって人間は、そういうもの。
そう、いつだって。

・・・いつだって?

どうして、どうしてそんなこと・・・。

「帰れへん理由があるんやな?」
その人の問いかけで、
どこかへ旅に出かけそうになった
わたしの思考回路は
再び会話に集中し始める。

「その・・・」

「あぁ、そろそろ本気で寒くなってきたし・・・
君もそのままやと風邪ひいてしまうし、


一緒においで。」

その人のあたたかく優しい言葉に
わたしの頬を打っていた雨にまぎれて
ひとしずく、暖かい何かが伝っていった。
その涙の意味なんて、今のわたしには
到底、分かるはずもない。


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