踏み出した一歩


灰の空、荒れ果てた地、
暗闇が支配する世界・・・
今宵も少年が一人、
そんな絶望の夢に魘されている。


「・・・レイ、レイ。」

小さな部屋に高い少年の声が響いた。
レイの肩をとんとんと叩く少年は、
黒髪に少女のような色白の肌をしている。
レイがゆっくりと瞼を上げると
心配そうな紫の瞳と目が合った。

「魘されてたよ、だいじょうぶ?」

「・・・あぁ、ありがとう。大丈夫。」

レイは、額にうっすらと
汗が滲んでいるせいで
張り付いた前髪を鬱陶しそうに払った。
気分が良くないのか、
眉間に皺が寄せられる。
その赤い瞳が月に照らされて光った。

「ホントにだいじょうぶ?
最近、ずっと魘されてる・・・。」

「最近、ずっと同じ夢を見るんだよ。
それのせいでよく眠れなくてさ。
・・・チヒロ、お前も眠れてないんじゃ?」

チヒロの目の下に
浮かぶクマに気付いたのか、
レイがそう尋ねると
彼は縦に首を振って微笑んだ。

「うん、僕も眠れないんだ。
なんだかずっと変な感じがするの。」

そう言いながら胸のあたりを
押さえるチヒロの姿を見て、
レイはまた少しだけ眉を顰める。

「そっか・・・なんかあったのか?」

「ううん、何かあったわけじゃ
ないんだけどね・・・
南の方に真っ白なお城があるよね?
赤い薔薇の紋章を掲げてるお城。
そこが夢に出てくるんだ。」

レイは思い出すように首をかしげる。

たしかに、ここから港へ出て、
少し南に行くと城下町がある。
そこの城の紋章が
赤い薔薇だったことを思い出した。

「あぁ、たしかに・・・チヒロ、
あそこへ行ったことあったっけ?」

「うん、一度だけね。」

チヒロは窓の外に視線をやりながら、
少し考え込むような顔をする。
そして、そっと口を開いた。

「満月の夜、2人の少年、
赤い薔薇の紋章、白いお城の背景。
毎日のように見るんだ、同じ夢を・・・」

そう言いながら、チヒロは再び
何かを考えるように顔を俯かせた。
レイはその後に続く言葉をじっと待つ。

「・・・僕、もっと広い世界が見たい。」

チヒロが呟いた言葉に
レイは目を見開いた。
内気で消極的な彼から、
そんな言葉が出るなんて
レイには全く想像できなかったのだ。
自分とは対照的に保守的なチヒロ、
繊細で脆い彼を守るのが自分なのだと
長い間、レイはそう思っていた。

「・・・俺もさ、
もっと広い世界が見たいよ。」

「え?」

窓から見える少し欠けた月を見つめて、
レイは静かに呟く。

「俺はずっと、小さい頃から思ってた。
もっと広い世界が見たかった。」

チヒロはレイのその言葉に
強い意志があるのを感じた。

「それに、一人より二人だろ。」

レイが振り向いて笑ったのを見て、
チヒロもにっこりと微笑んだ。



翌朝、二人の少年が
外の世界へと旅立ったのを
落ちかけた月がそっと見つめていた。


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