今日は満月だ。
夜だというのにあまりにも月が輝いているものだから、思わず目を細める。

「今日は綺麗な満月だね」
「そうだな、周りに雲もないからはっきり見えるなぁ」

縁側に座って私たちは月を眺めていた。
私が中々寝付けずに縁側に座っていたら、厠に行く所だった炭治郎に見つかってしまった。

「名前、中々眠れそうにないのか?」
「そうだねぇ、今日はしばらく月見でもしてようかな」
「そうか、なら俺もそれに付き合ってもいいか?」
「どうぞどうぞ」

そんな感じで私たちは月を眺めることにしたのである。
月の明かりで隣に座っている炭治郎の姿すらはっきりと見える。
しばらく見つめていたら、彼もこちらを見る。

「どうした?」
「ねぇねぇ、実は私は月の使者って言ったら信じる?」
「え!?そうなのか!?いや、鬼もいるしありえない話ではないのか・・・?」

彼が真面目に考え出すから、その姿に笑ってしまう。
言うことを素直に信じるんだなぁ

「ふふ、嘘だよ。私はそんな大層なものじゃないよ」
「嘘か!少し焦ったよ」
「炭治郎は素直だなぁ」

そんなところが彼のいい所なんだろう。
だから周りに人が集まるのもよくわかる。

「最後にかぐや姫は何を思って月に帰ったんだろうね」
「あのおとぎ話のことか?」
「そうそう。やっぱり最後はおじいさんおばあさんとか大切な人のことを思いながらいったのかな?」
「そうかもなぁ。きっと別れの時って一番大切な人のことを思い出すんだろうな」

私たちはまた月を眺めながら、かぐや姫に思いを馳せる。
最愛の人と別れるのはさぞかし辛かっただろうな

「私は、もしみんなと別れてしまうとしたら、誰を一番に思い出すんだろう?」
「名前・・・」

ふわっと私は彼に抱きしめられた。
まるでどこかへ行かないでと引き留められているようだ。

「どうしたの?炭治郎」
「なんか・・・名前がどこかへと行ってしまいそうだった」
「なにそれ、ここにいるじゃん」
「そうだよな・・・」

それでも彼は私を離そうとしない。
むしろ抱きしめる力が強くなっている気がする。

「苦しいよ」
「ごめん、でももしそんな時がきたら、俺は最初に名前を思い出すよ」
「・・・私も一番に炭治郎のこと思い出すよ」

ぎゅっと私も彼を抱きしめ返す。
好きな人にそんなこと言われたら、私の事もしかして・・・なんて思ってしまう。

でも私は彼に伝えることはきっとないだろう。
月よりもっともっと遠い存在だから。

私はこの時代の人間じゃないなんて、最後まで言わない。
その代わり、この思いだけは連れていかせてね。

私がいつこの世界から消えても大丈夫なように。

「眩しいね、お月さま」
「うん、そうだな」


今くらい顔が見えないように暗くしてくれてもいいのにね。



*PREV END#

Bookmarknamechange


 

TOP