2月
今日の学校はどこか皆そわそわしている気がする。
それもそうだ。だって今日はバレンタインなのだから。
もちろん私だってチョコの用意はしてある。渡す気満々である。

「はい!みんなのためにチョコレート用意したよ!」
「あれ?名前ちゃん俺たちにもくれるの?てっきり炭治郎だけかと・・・」
「みんなにはお世話になってるからね!渡すに決まってるよー」

みんなには仲良くしてもらっているし、お礼の意味も含めて渡す。
おいしいと評判のチョコを選んだから喜んではくれると思う。

「う、うめぇぞ、これ・・・!いつも食ってるやつとは違うな!」
「でしょー?少しお高いだけあるでしょ?」

伊之助くんは渡した瞬間からビリッと包装をあけて食べていく。
安い物ではないからもうちょっと堪能して食べてもらえると嬉しいんだけどね。
善逸くんも女の子にもらえるなんて・・・!と感動していたからよかったよかった。

「あの、俺ももらっていいの?」
「え?当然だよ。むしろ炭治郎くんに渡さない選択肢ある?」
「いや、そういうわけではなくて・・・」

もごもごと何か言いたそうにしているけど、どうしたんだろうか。
・・・なんて理由は少しわかる。
なぜなら善逸くん達に渡したチョコと一緒の種類の物だからだ。
私だって炭治郎くんには特別なものを用意したかった。
彼だけは手作りを渡そうと作ってみたのだが、登校中にぐしゃっと落としてしまったのだ。
袋にはいれてあったから中身は大丈夫だけど、見た目がひどい。
さすがにそんなものを渡せないので、先生にあげようと思ったものを急遽彼にあげることにした。
まぁ、すべて私の憶測なので合っているかはわからないんだけどね。
あ、もしかしたら甘いの苦手だったとか・・・?

「炭治郎くん、もしかして甘いの苦手だった?」
「いや!そんなことはない!ありがとう」

先程とは打って変わって笑顔で話をしてくれた。
あれ?さっきの感じは気のせいだったのかな・・・・
だとしても彼には特別なものをあげたかったから、明日もう一回用意して渡そう。

「あの、名前は今日放課後空いているか?」
「放課後?特に予定はないし、大丈夫だよー」

放課後なんてパン屋に行く予定しかないしね。
彼が放課後学校にいるなら私も学校にいるのが必然だろう。

「じゃあ、また放課後ね!」
「ああ、またあとでな」


放課後、言われた通りに空き教室で彼を待っていた。
最近よく空き教室で彼と会うことが多いような・・・?
用があると言っていたけど、どんな用事なんだろうか。
私もついでに明日もう一回渡したいと伝えよう。
ガラッとドアが開く音が聞こえたから彼が来たのだろう。

「あ、お疲れ様、炭治郎くん」
「あぁ、急に呼び出してしまってごめんな」
「全然いいよー。今日はどうしたの?」

彼のほうを見ていると、少し気まずそうにこちらを見る。
もしかして何か言いにくいことであるのかなぁ
それとも今日のチョコについてだろうか?

「今日は俺にチョコをくれたけど、カバンに入っているチョコは誰にあげるんだ・・・?」
「・・・えっ?」
「ご、ごめん!俺は鼻がいいから、俺たちにくれた物とは違う匂いがして・・・」

なんていうことだ。炭治郎くんにそんな特技があるとは。
確かに今日渡すはずだったものがカバンに入っている。
でもそれは失敗したものであるので彼に渡すようなものではないのだ。
しかしバレてしまっていては正直に話すしかない。

「・・・実は、炭治郎くんには手作りしたものをあげようとしたの」
「え?そうなのか・・・?」
「でも、落としちゃって。さすがに見た目もひどいから、あげることはできないんだ」

だから明日もう一度あげるから待ってね、と言おうとしたけど
その前に彼が安心したかのように息を吐く。

「っはぁー。そうだったのか。てっきり宇髄先生にあげるのかと・・・」
「さすがに手作りを先生にはあげないかなー」
「そうか・・・。それならカバンのやつ、俺がもらってもいいか?」
「え?さっき説明したけど、落としちゃって見た目悪いよ?」
「それでも、俺はほしい」

いつになく真剣な目で見られてドキッとする。
そこまでチョコが好きだとは思えないけど、カバンから袋を取り出す。
何度見ても潰れてしまっているものを彼に見せた。

「本当にいる・・・?どう見ても潰れちゃってるよ?」
「いいんだ、俺がほしいと言ったんだから」

彼は私から潰れた袋を受け取ると、中身を取り出した。
元はガトーショコラであったであろう物を見つめる。

「なんだ!意外と大丈夫じゃないか。袋に入ってたから中身も食べられそうだし」
「それでも一度落としちゃってるからなぁ・・・」

あんまり失敗作を見ないでほしいなぁと思っていると
炭治郎くんがパクっと食べ始めた。

「えっ、ええぇ!?そんな無理して食べなくていいよ!?というか汚いよ!?」
「おいしいよ、名前」

ほらってなぜか私にもガトーショコラを口に突っ込む

「んむっ、味見はしてるから味はおいしいけど・・・」
「そうだろう?じゃあ全部俺がもらうな」

私の口に突っ込んだ指をペロリと舐める。
それがなぜかとても色っぽく感じてしまって、目を逸らしてしまう。
炭治郎くんってこんなキャラだっけ・・・?

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「う、うん、そうだね・・・?」

何事もなかったかのように私たちは教室を出る。
私は当たり前のようにパン屋に寄り、またねと家に帰った。
帰りに彼に好きだよって伝えたけど、彼がどんな顔をしていたのか思い出せない。
彼の顔をまともに見れなかったためである。
私はベッドの上で放課後のことを思い出して、悶えてしまう。
炭治郎くんのあの仕草が忘れられそうにない。


「か、官能的な所も好きだよ、炭治郎くん」


私のつぶやきは部屋の中に消えていった。




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