12月
1年はあっという間だったなぁと感じる時期である。
しかもそろそろクリスマスも近いし、世間が浮きだっているように見える。

「宇髄先生―、何かおもしろい話をしてください」
「美術室に入り浸っているやつに、なぜそこまでしないといけないの?」
「お詫びにお菓子持ってきているじゃないですかー」

最近は暇さえあれば美術室に居座っている。
お昼もここで食べることが多くなった。
実は夏に宇髄先生と話してからは私たちはちょこちょこ話す関係になっていのだ。

「竈門と喧嘩でもしたのか?」
「・・・違います、先生。私が勝手に落ち込んでいるだけです」

あの日からパン屋さんに通ってはいない。
お昼に竈門くんからご飯を誘われるが、友達と食べるからってそれとなく断っている。
パンも、お金ないからしばらくいいよって断っておいた。
竈門くんは何か言いたそうにしていたけど、あえて知らないふりをした。

「そんな地味な顔してるなら、さっさとケジメつけてきたらぁ?」
「完全に脈なしな人にまだ当たって砕ける覚悟ができてないです・・・」

しばらくしたらいつも通りに接することができるだろうと考えていたのだが、中々気持ちに整理がつかない。
こんな情けない顔で彼と話すのは嫌なんだ。

「はぁ・・・私はこれからどうすればいいんですかね?」
「さっさと次の恋でも探せばいいんじゃないの?別に竈門だけがすべてじゃないだろ」
「それはそうですけど・・・私は竈門くんじゃなきゃ嫌なんです」
「・・・ふーん、難儀なこったい」

先生は手を止めていた筆をまた動かし始めた。
美術室が静寂に包まれる。お互い無言になるが嫌な空気ではなかった。
先生が絵を描いている所を見ながらボーっと考える。

パン屋さんに最近行ってないけど、新作のパン出てるのかな。
竈門くんはクリスマス誰と過ごすんだろう。やっぱり家族とかなのかな
そして、私のこと本当はどう思っているのかな・・・
考えれば考えるほど、彼のことばかり考えてしまう。

しばらく思考をぐるぐるとしていたら、先生がこちらを見ていた。
なんだか、ニヤニヤしているような?

「先生?どうかしたんですか?」
「苗字、俺と付き合ってみるか?」

突然のこと過ぎて頭がフリーズする。

「え?突然なに言っているんですか?」
「俺様イケメンだし、好きな子は大事にするタイプよ?」
「いや、先生すでに3人くらいいらっしゃるじゃないですか・・・」
「3人も4人も変わんねーよ」

ガタッと先生が立ち上がってこちらに向かってくる。
ジリジリとこちらに向かってくるのが余計に怖い。
私も後ろに下がっていくが、トンと後ろの壁に当たった。

「う、嘘ですよね?先生?私たち、先生と生徒ですよ?」
「黙っていればバレないんじゃねーの」

手が私の顔の横に置かれる。俗にいう壁ドンというやつだ。
もし先生のことが好きならドキドキするようなシチュエーションだが私には恐怖でしかない。
顔も近いし、今にもくっついてしまいそうだ。

「せ、先生、やだっ・・・」
「苗字さんから離れろ!」

バンッとドアが開き、こちらのほうにまっすぐ来て腕をぐいっと引かれた。
状況が突然過ぎてビックリするが誰が助けてくれたんだろうと顔をちらりと見ると
最もいま会いたくない人物であった。

「か、竈門くん・・・?」
「先生がそんなことするなんて最低だと思います。さようなら。行こう苗字さん」
「えっ?えぇぇ?」

ぐいぐいと引かれて美術室を後にする。
チラッと先生のほうを見ると、笑いを耐えている顔だった。
(ほら、押してダメなら引いてみろってな)
そんなことを口にしていた気がする。

竈門くんに手を引かれながら考える。
別に意図してやったことではないんだけどな・・・
しかし結果的にそうなってしまったのかな?でもこれが成功してるかどうかわからないし。
うーん・・・と考えていると、彼に声をかけられた。

「苗字さん、ごめん、突然こんなことをしてしまって」
「え?いや別に気にしてないよ!助けてくれたんだよね?ありがとう」
「俺、苗字さんに話したいことがあって・・・」

その言葉にドキっとした。わかりやすく避けていたし、嫌いになっちゃったのかな。
それともやっぱり今までのことが迷惑だったことを言われるのかな。
言葉の続きを聞くのが怖かった。

「その、ごめん!苗字さん!善逸たちに怒られたんだ。いつまでも返事を先延ばしにするなと。
俺は、苗字さんは善逸や伊之助のことは名前で呼ぶけど、好きだと言ってくれる俺にはずっと名前を呼ばれないことが少し悲しかったんだ・・・」

彼が少し悲しそうな顔をする。確かに自分の勝手なこだわりで名前呼びを躊躇していた。
それによって彼を傷つけていることになるなんて、申し訳ない気持ちになった。

「ご、ごめんね・・・?」
「正直まだ俺には恋というものがわからない。でも苗字さんが来てくれないパン屋は寂しいし、名前に名前で呼ばれたいと思うんだ・・・」

突然私の名前を呼ばれて胸がキュッとなった。
まだこの思いをあきらめなくていいのだろうか?
恋を知らないと言いつつ、拒絶の言葉がないということは、期待してもいいのだろうか

「あ、あの・・・私はまだあきらめなくてもいい?」
「俺は名前のこともっと知りたいと思う。今はこれが返事でもいいだろうか・・・?」

彼は顔が真っ赤になっているけど、目を逸らさずに言ってくれた。
今の精一杯の気持ちが聞けて、私は嬉しかった。
一度諦めかけたこの気持ちが、また湧き上がってくる。
私も顔が熱いのがわかるが、今まで伝えられなかった分、また彼に伝えるのだ。


「好きだよ、炭治郎くん!」


まだまだ私は彼に夢中なのだ。


*PREV NEXT#

Bookmarknamechange


 

TOP