11月
そろそろ寒くなってきたなぁと感じ始める時期である。
まだ11月ではあるけれど、12月にあるイベントに思いを馳せる。
願わくば好きな人と過ごしたいとは思うが、中々進展していないのが現状である。

ちょっとくらい意識してくれてもいいじゃない?と少し思ってしまうけど
もし、振られてしまったら今までのような関係に戻れるのかと言われたら自信がない。

「そろそろ竈門くんとの関係が進展してもいいと思うんですが、どう思います?」
「なぜ俺に聞く?それって腹が膨れるのか?」

私はたまたま教室に残っていた伊之助くんに相談をしてみる。
正直、恋愛話をするには微妙な相手だとは思うけど、善逸くんばかりに話をしても解決しない気がする。

「お腹は膨れないけど、胸がいっぱいになるかなぁ」
「はー?よくわかんねーな!そんだけアホ次郎に言っても無理なら無理なんじゃね?」
「ぐっ!伊之助くんはストレートに言ってくれるね・・・!」

しかし彼の言うことは最もである。
最近は本当は迷惑だけど優しい彼のことだから言わないだけじゃないかなと。

「毎日同じことを言われて嫌なんじゃねーの?俺だったらぶん殴ってるわ」
「・・・そうだよねぇ」

本当に彼の言う通りだ。善逸くんとかならそんなことないよ!とか言ってくれたかもしれない。
けれど伊之助くんは裏表がない分、ストレートにくる。まずい少し涙が出た。

「なっ、なんで泣くんだよ!泣くんじゃねぇ!」
「ごめん、なんだろう、生理的な涙かな・・・?伊之助くんが悪いわけじゃないよ」

珍しく伊之助くんがおろおろとしているから、少しおかしくなる
私はたまらず少し笑ってしまった。

「お前泣いたり笑ったり忙しいやつだな!」
「ごめんごめん、伊之助くんに話をしてみて少しすっきりしたよ」
「お、おう!俺様は親分だからな!子分の話は聞くもんだ!」

彼がほわほわしている所をみると、言葉は悪いし裏表なさすぎるけどいい子だなと思う。
だからもう少しだけ彼に相談をしてみる。

「私のことは眼中にないのかなぁ?」
「・・・それはないんじゃねーの」
「えっ、なんで?」
「あいつ、たまにお前が違う奴と話しているとき、そっちのほう気にしてるみたいだしな」

なんと。それは初耳だ。
もしかして、少しは自惚れてもいいのだろうか。なんて都合のいいことを考えてみる。
もしそうだったらいいなとほんの少しだけ期待をしてしまう。

「えへへ、ありがとう伊之助くん、私がんばるね!」
「なんだかよくわからねーが、忙しいやつだな」
「そうと決まったらさっそく竈門くんの所に行ってくるね!」

少しでも可能性があるなら私はそれにすがりたい。
多少でも竈門くんに何か気持ちの変化があると信じたい。
私はしばらく彼を探していると、下駄箱あたりにいるのが見える。
あっ見つけたと思って声をかけようとする

「かま―――」
「あ、しのぶさんお疲れ様です!約束のパン持ってきましたよ!」
「ありがとうございます。炭治郎くん。あら、こんなにたくさん」
「いつもお店に来てくれますからね!特別です!」
「ふふ、ありがとうございます」

私はとっさに隠れてしまった。
竈門くんとしのぶさんと呼ばれているとても綺麗な人と話をしているのが聞こえる。
確か彼女はキメツ学園の三大美女の胡蝶しのぶ先輩だ。
心なしか彼の顔が赤い気がする。そりゃあんな美人と話せばそうなる。
そんなことより一番気になったのは・・・

「特別・・・かぁ」

彼にとっての特別は特別ではなかったのだ。
彼のパン屋さんの常連になるだけで、彼にとって特別になれるのだ。
―――大切なお客様として

「うぅ・・・っ、結構、くるものがあるなぁ」

パタパタと涙が手に落ちる。
勝手に恋心を持ったのは私だし、期待していたのも私だ。
惚れたほうが負けというが全くその通りである。
こんな場面を見ても嫌いになれるはずがない。むしろ大好きだ。
しかしこの恋心、報われそうにないのだ。
今日くらい泣いてもいいだろう。幸い誰も見ていない。
しばらくしたら、いつもの私に戻るから。


「残酷な所も好きだよ、竈門くん」


彼に出会って初めて私はパン屋に行かなかった。




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