10月
私たちはパン屋さんの前に立っていた。
周りには私たちと同じように仮装をしている人たちが割といる。
ここの町は割と大きな規模でハロウィンを催しているようだ。

「結構人がいっぱいだねぇ」
「ある意味お祭りだもんね!名前ちゃんも魔女の格好似合ってるよ!かわいいねぇ」
「ほら!ちゃんと着てきたぞ!俺を褒めろ!」
「ありがとう!善逸くんと伊之助くんも似合ってるよ!」

私は無難に魔女の格好にしてみた。ちょっといつもよりスカートは短いけどそれはご愛嬌で。
善逸くんは吸血鬼?の恰好で、伊之助くんはおばけの恰好だ。

「じゃあ皆そろったし、お店に入ろうか?」
「俺は腹が減った」
「炭治郎も見たらビックリしそうだねぇ!」

竈門くんはこの格好を見てどんな反応をしてくれるのかな?
私も少し楽しみだ。


カランとドアを開けると、パン屋さんは人でにぎわっていた。
しかしなぜか女性ばかりいるような気がする。

「あ?なんでこんなに女ばっかりいるんだよ」
「確かに人気店ではあるけど、比率がおかしいよねぇ?」

やはり私の気のせいではなさそうだ。
何か中で起きているんだろうか?とカウンターを見てみると普段とは違う彼が立っていた。

「いらっしゃいませ!全部で6点でお間違いないですか?」
「は、はいっ!その格好素敵ですね・・・!」
「あ、あの手を放していただけると・・・」

お客さんであろう人が、商品を入れた袋を渡そうとしたその手をぎゅっと握っている。
彼は困ったような顔をしている。

「おいおい炭治郎、モテモテじゃないの・・・!」
「そ、そうだね。そんな格好してたら誰もが見ちゃうよね」

彼の姿は学ラン?みたいな格好の上に市松模様の羽織を羽織っている。
あまり時代背景はわからないが、大正時代くらいだろうか。ハイカラな感じがしてとても彼に似合っている。
女の子にちやほやされるのもわかる。だけどどこか面白くない。
自分でもわかってる。これがどういう感情なのかと。
まだ付き合ってるわけではないんだから、落ち着け名前。
はぁー。と深呼吸をしていると彼はこちらに気が付いたようだ。

「善逸!伊之助!苗字さんも!いらっしゃい!今ちょうど混んでいるから少し待っててくれないか?」
「全然大丈夫だよ!竈門くん頑張ってね」

ずっと中にいると邪魔だし外に出ていようとなって私たちはお店の外で待つことにした。
まさか彼がコスプレしているとは思わなかったからビックリした。
目の保養です。神様ありがとう。
でも最初に自分が見たかったなぁ、なんて

「名前ちゃん大丈夫?何か動揺してる?」
「そっかぁ、善逸くんにはわかっちゃうかー。自分が情けなくなっちゃって!」

あははと笑ってみるけど、うまく笑えてるか自信がない。善逸くんもそんな顔しないでおくれ。

「モテモテなのはわかっているんだ。だって真面目で優しいしね!でもそこを含めて好きなはずなのに、ちょっと嫉妬しちゃった!」
「・・・名前ちゃん、あんまり無理しないでね?」

善逸くんも心配性だなぁ。私はいい友達に恵まれている。
しばらく外で話していると、カランとドアが開いた。

「お待たせ!外は寒くなかったか?」
「お疲れ様、竈門くん。すごいお客さんだったねぇ」
「なぜか、俺たち家族のコスプレがよかったみたいでな・・・」

家族みんな和服だったのが受けたみたいだな!と少し恥ずかしそうに笑った。

「確かにかっこよかったなぁ・・・」
「・・・苗字さんも、似合ってるよ」
「えっ、ほんとに?」

こうやって何か面と向かって褒められるのは初めてかもしれない。
やっぱり来てよかったな。さっきのことを忘れてしまうくらいには。
自分の顔がにやけるのがわかる。

「へへ、じゃあさっそく、トリックオアトリート!」
「俺にも菓子をよこせ!」
「はいはい、伊之助の分もちゃんとあるぞ」

伊之助くんにお菓子を渡していく。
私の手にもポンッとお菓子をくれた。はい、どうぞって。
お客さんにはお菓子を渡している所は見なかったから、私たちの分だけ用意してくれたのだろう。
こんなことで幸せな気持ちになる。本当に自分はちょろい。


だから、我慢できずに伝えてしまうのだ。


「かっこいい所も好きだよ、竈門くん!」




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