6月
最近はずっと雨だ。ジメジメが気持ち悪い。
竈門くんに言われた通り、お昼にパンを律儀に毎日持ってきてくれるようになった。
その代わり危ないから、こんな朝早くに来るんじゃないぞって言われてしまった。
私は言われたことは守る女だ。それから朝早くに行くのは止めた。
しかし放課後にパンを買いに行くようになった。

「ずっと雨ばかりで気が滅入ってしまうねぇ?」
「そうだねぇ。こんな雨の中、校門に立ってチェックするのは嫌になっちゃうよ」

早く梅雨明けないかなーって言っている男の子は最近仲良くなった我妻くんだ。
竈門くんたちとも仲がいいらしく、よく話しているのを見かける。

ちなみに私が我妻くんと仲良くなったきっかけは
帰りに電柱に隠れて竈門くんを見守っていたら、隣に我妻くんがいた。
彼は竈門くんの妹さんの禰豆子ちゃんが好きらしい。

私たちは竈門家を愛する同盟として友情を結ぶことになったのである。

「我妻くんは、禰豆子ちゃんのどこが好きなの?」
「えぇっ!それはねぇ・・・」

もじもじとしながら彼は顔を赤らめている。
頭がタンポポみたいに開いてておもしろいなぁと感じた。

「当然すべてが愛おしいんだけどね、禰豆子ちゃんはとても優しい音がするんだ」
「そうなんだ?確かに竈門くんと一緒で優しいもんね」

フランスパンを咥えているのは謎であるが、パン屋さんに行ったときに会釈をすればニコニコと応えてくれる。
前にポーチを落とした時も彼女が届けに来てくれたし、優しい子だと思う。

「いいなぁ、私も耳がよかったら竈門くんの音?も聞こえたのかな。」
「そうだねぇ。炭治郎も泣きたくなるほど優しい音を出すんだ。」

我妻くんは、人よりも耳がいいらしく遠くの音が聞こえるのはもちろん
その人の感情までなんとなくわかるようだ。
私にもそんなことができたら竈門くんのこともっと知ることができるのかなって少し羨ましかった。

「じゃあ私も音も聞こえちゃったりする?竈門くんに対してやましい音とか出してない?」
「まぁ、炭治郎が好きっていうのは聞かなくてもわかるかなぁ・・・」

それもそうか。私はほぼ毎日彼に好意を伝えている。
何かあれば好きだと伝えているが、最近は慣れてしまったのか
のらりくらりとかわされているように思ってしまう。

「我妻くーん、どうすれば愛が伝わるかなぁ」
「俺もどうすれば禰豆子ちゃんに伝わるか知りたいよ」

お互いに竈門家の鈍感さに頭を悩ます。

「そういえばさ、せっかく仲良くなったし、苗字さんのこと名前ちゃんって呼んでもいいかな?」
「もちろんだよ!我妻くん!私も善逸くんって呼ぼうかな」

気軽に名前が呼べる友達って嬉しい。
更に彼とは仲良くなれそうだ。

「いつかは竈門くんのことも炭治郎って呼べる日も来るのかな・・・」
「別に今からでも呼べばいいんじゃないー?」
「いや!好きな人の名前ってなんか特別じゃん?そんな気軽に呼んでいいものか・・・」
「変なところでこだわるんだね、名前ちゃん・・・」

私にとって、好きな人の名前を呼ぶのはちょっと恥ずかしい。
いや、竈門くんが今から呼べって言えばすぐそんな考えは捨てるけどね。
私の夢より竈門くんの言うことが絶対だ。
彼のことを考えるだけでニヤニヤしてきた。

「名前ちゃんは、まっすぐな音を出すんだねぇ」
「ん?何か言った?善逸くん」

そんなやりとりをしていると、教室のドアがガラッと開いた。

「あっ、善逸まだ教室にいたのか。苗字さんと一緒だったんだな!」
「そうなの。名前ちゃんと語りあってたんだぁ。炭治郎も帰るところ?」

毎日見ても飽きない彼の顔は、なぜかキョトンとした顔になっている。
そんな顔をしてどうしたんだろうと見ていると、彼はニコニコとして

「善逸と苗字さんは、俺よりも仲がよさそうだな!」
「そっそんなことないよ!ね?善逸くん!」
「えぇぇ!そこまで言うのはひどくない!?」

彼にはまだまだ気持ちが伝わっていないのだろうか。私の気持ちは決まっているのにな。
だから何度も彼に伝えるのだ。



「そんなつれない所も好きだよ、竈門くん!」


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