何も知らないフリの君




小春が休みなので、ゆっくりネタでも作ろうかと屋上へのドアを開ける。

と、千歳を見つけてしまった。

踵を返そうとした時に、
「ユウジくんやなか」
と声をかけられてしまい、俺は逃げはぐってしまう。

正直、俺は千歳が嫌いやった。
ふらふらふわふわへらへらしとるし、何を考えてんか、むしろ何も考えてないのか…腹ん中が見えへんところがごっつい気持ち悪い。だから白石を始め、皆がこいつにどうして甘いのか、全く理解できひんかった。

俺は口を曲げて、仕方なしに手をあげて挨拶をした。
「どきゃんしたと?」
「別に。関係ないやろ」
突き放すように答えると千歳は悲しそうに眉を寄せる。
「今日、小春ちゃん休みたい」
「知っとるわ。つか誰に断って小春に馴れ馴れしくちゃん付けとかしてんねん」
睨み付けると、お決まりのように「小春ちゃんにばい」と返事が返ってきた。くっ浮気か小春…!そんな尻軽なところも愛しとる!
「ユウジくんユウジくん」
「なんや」
面倒くさそうに返事をすると、千歳はキラキラした目でこっちを見ていた。
「今日は俺がダブルスの練習相手になってもよか?千手観音とかしたか!」
あまりの勢いに俺は思わず後退る。なんで俺が小春以外の奴とダブルス組まなあかんのや、と怒鳴り付けようとしたのだが、


俺と千歳のダブルス。





ないないない!
千手観音というか完全にトーテムポールやないか。
リアルに想像して心の中で突っ込んでしまう。
「ダブルス舐めんなや」
思わず笑いそうになるのを堪え、俺は千歳の膝の裏めがけてローキックをかました。既に千歳の膝の位置が高いのでローキックとは言わないかもしれないが。千歳は痛みに少し顔を歪めた後、へにゃらと笑った。
「なんで笑っとんねん。キモいわ」
「ユウジくん、俺んこつ嫌いと思っとったから」
こいつは、と口を曲げた。少し千歳の中が見えた気がする。確かにふらふらふわふわへらへらしとるけど、何も考えてないわけでも、何も見えてないわけでもない。
「千歳」
「んーなんね?」
手すりに寄りかかり校庭を眺める横顔を見ながら、面白い奴だと始めての思った。
「もじゃもじゃなや」
俺は手を伸ばして千歳の髪をぽふぽふ触った。見た目よりもずっとふわふわで柔らかい。思わず口の端が緩んだ。

ああ、そうか、

千歳はひどかね、と言って楽しそうに笑う。その顔を見ながら、少しだけ皆がこいつに甘いのがなんとなく分かったような気がした。











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