日曜日
「こたつはぬくか〜」
のんきな声にいらっとして舌打ちをしようとしたら、痛い方の頬を動かしてしまい、眉を潜めた。"千歳"は昨日と恐らく同じ曲の鼻歌を歌っている。
この暢気な生き物を誰がしばいてくれ。
俺はため息をついてからコーヒーを二つこたつの上に置き、"千歳"の隣に座った。マグカップに口を付けようとして"千歳"の視線に気が付く。
「何、にやにや見てんのや」
んー、と"千歳"は笑いながら曖昧な返事をして腫れ上がった俺の頬に触れた。
「いっ」
「白石くんはほんなこつ男前、たい」
この状況で、このぼっこぼこに殴られて、顔が変わるぐらい腫れ上がった面見て言うことか。俺は顔をしかめて"千歳"の手をどけた。
「ホンマに痛いんや。触んな」
少し不機嫌を露にしながら顔を背けると、謝るかと思った千歳の口からありがとう、と出てきて恥ずかしくなった。照れてる訳じゃない。本当に恥ずかしいのだ。何も言わなかったけれど、あの状況で気絶した俺を助けられたのは"千歳"しかいない。奪うとか意気込んで叫んでいた自分が痛々しい。
「お前には負けるわ」
更に増えたアザに指を這わすと、少し気持ちが良さそうに"千歳"は目を閉じる。濃い睫毛が頬に影をおとした。俺はドキッとしてしまう。
「昼間っからスケベたい」
いつの間にか開いていた目が俺を捕らえ、見透かしたような目で"千歳"は笑った。俺は"千歳"の頭を叩く。
「取り方の問題や。お前のがスケベやろ」
「じゃあ、そういうこつでよかばい」
「なっ」
恩義せがましい言い方に俺はカチンときて言い返そうとしたら"千歳"は指を折って何やら数え始めた。
「手で一回。中で三回、最後に、」
「わーわーわー!」
途中でとんでもない回数を数えていたことに気が付いて、俺は声をあげて力ずくで止めにかかる。手を抑えるとすぐ側に"千歳"の顔が、
「…ほんま、誰のために人まで殴ったと思ってるんや」
そんなの間違いなく自分のためだったが言わずにはいられなかった。もちろん、ただの強がりだと分かっている様子の"千歳"は楽しそうに目を細めている。いらっとして怒鳴り付けてやろうかと思ったら、"千歳"はちゅっと軽いキスをしてきた。やられた。俺はそのまま"千歳"を押し倒し、深いキスをする。
「くそっ…今度は数えてられないぐらいしたるわ」
「やっぱり白石くんはスケベたい」
どちらともなく、もう一度キスをした。そしてすっきりとした襟元からでる鎖骨から喉を優しく撫でると、"千歳"は小さく鳴いた。
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