木曜日



部屋にはいたくなかった。
だから布団を干して、逃げるように飛び出した。買い物行かな、なんて後付けの理由だ。

(ホンマ、一晩で4回とかどんだけやねん自分)

もう色々とぐちゃぐちゃで、最後の方は俺と"千歳"の妄想になってしまっていた。こないだ会ったばかりの、しかも男(更に隣人さんの恋人?)をおかずにするなんて…でも想像の"千歳"は同性とは思えない程の色

「買い物行かな、買い物」

考えても仕方ない。むしろ考えてはいけない。俺は頭を振って仕切り直し、眩しい世界へ一歩踏み出した。







なんたる数奇な運命。

目眩がする。こいつは、"千歳"はスーパーのお菓子売り場でしゃがみこんで何をしているのだろう。そして、早く逃げればいいのに、俺は何故立ち尽くしてしまっているのだろう。
"千歳"はお菓子を2つ持って悩んでいるようだったが、ふと俺の視線を感じたのか、"千歳"は顔をあげた。

「こ、こんにちわ」

俺の顔を見てふにゃっと笑う。

「一人で買い物ですか?」

"千歳"は首を振った。きっと隣人さんと一緒なのだろう。"千歳"は立ち上がって俺に近づいてくる。

(あ)

ゴツいネックレスのトップの辺りに真新しい鬱血を見つけてしまい息を飲んだ。胸がちりっとする。そして、そのまま通り過ぎようとする"千歳"の腕を反射的に掴んでしまった。

「あ、いや、」

"千歳"の目が俺を捕らえる。でも、離せとも、どうしたんだ、とも言わなかった。

「友達なんですか?」

思わず出てしまった言葉に慌てて口を押さえる。"千歳"はすぐに質問の意味を理解したのか、自嘲気味に笑みを浮かべた。

「意地悪か質問たい」

初めて聞いた"千歳"の声。
それに感想を持つ前に、視界が"千歳"でいっぱいになり、ほんの一瞬、唇が俺の唇に触れる。
俺は慌てて身体を離した。
こんなところでキスされた。

「なっ!」

「口止め、かね?」

キスをしてしまったと言うことよりも、口止めの意味にひどく動揺した。

「千歳」

その声に弾かれたように振り返る。お隣さんだ。見られたかと思ったが、笑顔で俺に手を振ってくれていたので安堵した。



"千歳"と一緒に買い物を続ける隣人さんを見送ると、俺は逃げるようにレジに向かい、会計を済ます。家に帰ると見覚えのないお菓子が一つ出てきたが、直ぐに"千歳"が迷っていたお菓子の一つだと気がついた。

「…なんやねんあいつ」











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