火曜日
朝ご飯を軽めにすまし、天気も良いのでとりあえず洗濯をして、酒臭い気がする布団を干そう立ち上がった。
洗濯機を回していると携帯が鳴る。メールは一昨日隣だった女子からだ。(隣人さんには嘘を吐いたが、実は一昨日は合コンでした)騒がしかった合コンを思い出し、ふと首をかしげた。昨日の晩、すごく静かだったが、隣人さんは部屋飲みしていたはずだ。もう少し年齢を重ねるとそんなもんなのだろうか。
洗濯機を回している間、布団を干してしまおうと狭いベランダに出た。手すりに布団をかけて、俺は身を乗り出し布団を叩く。ちらりと横目で隣を見ると隣も布団を干していた。もう少し身を乗り出して覗いてみると誰かが手すりに突っ伏しているのが見える。
「…また寝とる」
ごみ男だった。顔をこちらに向けてすやすや寝ている。どこでも寝れてしまうのか、と呆れつつも笑みがこぼれた。
俺は少し手すりの方に寄り、間近でごみ男の顔を眺める。本当に気持ち良さそうだ。風が吹いて、ごみ男の髪がたんぽぽの綿毛みたいにふわふわ揺れた。魔が差したとでもいうのだろうか、どうしても触りたくなってしまい、つい出来心で近寄り手を伸ばしてしまった。
(ふわふわや)
見た目より柔らかい髪がするりと指からこぼれる。
「あ」
近くまで寄ってみて初めてそれに気がついた。首筋の鎖骨に近いところが鬱血してる。
キスマーク。
そんな言葉が頭をよぎった。
ちょっと待て。昨日は確かになかったはずだ。あの後隣人さんと二人で飲んでたはずで…女子来た?や、したら静かすぎるやろ。ん?ん?ん?と目を瞑って眉を寄せる。一向に答えが出ないので目を開けると、
ごみ男と目が合った。
それはあまりにも不自然な状況だっただろう。隣の男がこちらに身を乗り出し自分の髪を触っていたのだから。それでもごみ男は声一つ上げずにじっと俺を見ていた。言い訳でも何でもしなきゃいけないのに体が動かない。目が逸らせない。
「千歳ー」
隣人さんの声が聞こえて現実に引き戻される。俺は慌てて手を引っ込めた。千歳、と呼ばれたごみ男は立ち上がり、ゆっくりと部屋に戻ってゆく。俺も逃げるように部屋に戻り、床にへたり込んだ。心臓がバクバクいっていて、膝が笑っている。
なんだったんだ今のは。
自分の不可解な行動と視線を交わした不思議な時間。
意味不明なことだらけに俺は頭を抱えた。
でも、ただ一つ分かったのは、ごみ男の名前は千歳と言う事だった。
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