ピアス



「なぁなぁ千歳」

金太郎は千歳の背中にぴったりとくっついて、甘えた声を出す。それはまるで中学の時と変わらない雰囲気だ。

付き合い始めてからは肩の力が抜けたのか、金太郎からは大人っぽい表情が減り、昔のようなあどけない表情が戻った。しかしあの時から5年も経っていれば、もうただの子供ではない。正直、千歳にとっては良いのか悪いのかはっきり言えないのが現状で。

「なんね、甘えん坊」

からかうように笑うと、金太郎は千歳のピアスごと耳たぶを食んだ。辛うじて声は押さえたが、体がビクっと反応してしまう。このおねだりか、と千歳が思ったとき、

「俺、ピアス空けて欲しいんやけど」

無邪気な笑顔で金太郎は首を傾げた。千歳はそんなことを考えてしまった自分に苦笑いを浮かべる。

「道具なかよ?」

「ちゃんと道具買うてきたで!」

金太郎は自慢気にバッグから真新しいピアッサーを取り出して胸を張った。千歳は手にとると不思議そうに眺める。

「これは…耳たぶを挟んでやればよかね?」

「…千歳、使うたことあらへんの?」

それは?と言いたそうに金太郎は左耳のピアスに目をやった。

「安全ピンばい」

金太郎は想像してゾッとしたのか肩を竦める。

「なんね、金ちゃん怖か?」

「別に怖くあらへん!」

「じゃあ安全ピンでやってみると?」

「お、おん!」

明らかに強がってる様子に千歳は喉をくっくと鳴らしながら安全ピンを探した。

「千歳」

「なんね?」

「…どうやってやるん?」

思わず吹き出しそうになるのを抑えて、もう少し待ちなっせ、と背中で答える。



千歳は安全ピンと消しゴムを金太郎の前に差し出した。

「まずは消毒すったい」

消毒液を吹き掛け綺麗にする。その様子に金太郎は興味津々だ。千歳はそんな金太郎の頭に腕を回して引き寄せた。

「ここも」

千歳はぺろりと金太郎の耳たぶを舐める。金太郎は体を震わせた。千歳は直ぐに顔を離して金太郎を見ると、悪戯っぽく舌を出して笑った。

「さっきのお返しばい」

金太郎は口をポカンと空けていたが、慌てて頭を振って我に返り、力任せに千歳を押し倒した。肩を押さえつけられ逃げられない千歳に金太郎の顔がゆっくりと近付いてくる。
「金ちゃん、ピアスはよかね?」

「煽ったのは千歳やろ」

ごもっとも、と思いながら千歳は静かに目を閉じた。











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