戦いはコートの外で
「ねぇ」
聞き覚えのある少し高めで生意気な声に千歳さんと俺は振り返る。ビンゴ。青学の越前リョーマだった。俺は露骨に顔を歪めたが、千歳さんはにこにこと嬉しそうやった。
「天衣無縫くんやなか」
「…越前リョーマ」
「ちゃんと東のすごかルーキーのこつは知っとーと」
千歳さんは楽しそうに声を上げて笑うと越前リョーマの頭をぽんぽんと叩く。ははは、あれはかなりむっとした顔や(ざまーみろ)
「越前くんはどきゃんしたとね?」
あ。
話し振ってもうた…めんどくさいことになるやん。
「別に」
エリカ様かよ。
古いっすわ。
「…天衣無縫の事、」
「な、なんね?」
はや。まだ話の途中やろ。
しまった…千歳さん、無我が関わるといつも以上にアホみたいになるんや。
「千歳さん、早く行かんと呼びに来た俺かて白石部長に叱られてまいますわ」
俺、という所がポイント。千歳さんは自分だけならええと思うんやけど、他も巻き込むのは嫌がる。俺と越前リョーマの顔を交互に見ながら仕方なかね、と悲しそうに呟いた。
「越前くんすまんね。また今度で良か?」
「別にいいけど…くん、とかやめてくれない?」
「?」
「なんかやだ。それに俺も千歳って呼びたいし」
「何言うてんねん。いてまうぞこのクソチビ」
思わずドスの効いた声を出してしまった。こいつ調子に乗りすぎや。
「じゃあ千里」
「はぁ?なにどさくさに紛れて更に上の要求してんねん。」
「あのさ、あんたに聞いてないんだけど黙っててくんない」
カチーン。
俺が言うのもなんやけど、めっちゃ生意気やないコイツ。ないわ。
手が出そうになったとき、千歳さんが俺の肩に手を置いた。
「財前、ほら行くばい。越前」
くん、とっとるし。
越前リョーマがにやりと笑った。俺に向かってや。
「なに?」
「約束。また今度ゆっくり話がしたかね」
千歳さんは小指を差し出し、満面の笑みを向ける。越前リョーマは少し戸惑ってから、おずおずと小指を出した。端から見たら親子の約束みたいに見えるのに…無性にイライラするんやけど。
そのイライラした気持ちを抑えながら俺は心に誓う。
無我の扉がなんやねん。
俺は3つでも何個でも開いてやるっちゅうねん!
「千歳さんはよ行きますよ」
「はいはい、今行くたい」
千歳さんはひらひらと越前リョーマに手を振り、俺は一瞥くれてやる。
て、俺のことは無視かよお前!
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