桜の木の下で



「千歳、そっちやないやろ帰り道」
白石が声をかけると千歳はばつが悪そうに振り返った。
「何でもなかよ」
「それは答えになってないで千歳」
「見逃して、くれなか?今日行けんと…」
普段も丸い背中を更に丸くする千歳に、白石は目を細めて意地悪そうに口の端を上げる。

「そうやな、それは千歳の返答しだいやで」

















目の前に広がるは満開の桜。
辺りには優しい風が吹いて、まるで吹雪のように花弁が舞う。
「なんや、これ」
白石はその光景に目を疑った。学校のそばにこんなところがあるなんて。隣いる千歳に目をやり肩を竦めた。
「別にこっそり行くところじゃないやろ」
千歳は桜を見つめたまま頭を掻くと唇を尖らせる。
「ここは秘密の場所たい」
その様子がなんだかひどく可愛くて笑ってしまった。バカにされたように取った千歳は更にムッとする。
「なして笑うと」
「いやいや、笑ってないで」
「笑ってるばい」
普段見れないようなムキになった千歳に白石は声をあげて笑った。こんな千歳の姿を知っているのは自分だけかもしれない。それがなんだか無償に嬉しい。白石は一頻り笑い、怪訝そうにそっぽを向く千歳の背中を叩いた。
「千歳」
「…なんね」
「秘密の共有やな」
ビックリしたように千歳が白石を見る。思いもよらない言葉だったのか。白石が笑顔を向けると千歳も笑顔を返した。
「おん?」
白石が千歳の顔を見て動きを止める。
「どぎゃんしたと?」
白石はじーと千歳の顔を見つめたままゆっくりと近付く。その端正な顔に千歳はドキマギしてしまった。思わず目を瞑ってしまう。唇に何かが触れた。キス?

「花びら、ついとるで」

その言葉に千歳は弾かれたように目を開く。白石の手には薄ピンク色の花弁があった。先ほど唇に触れたものは白石の指だったのだ。
「あ、ああ花びら、花びらたいね」
一瞬でもそんな事を考えた自分が恥ずかしくて吃ってしまう。ちらりと戻した視線が白石とぶつかった。また意地悪な笑みを浮かべている。嫌な予感がした。
「なんや千歳、ちゅーされると思うた?」
「ばっ」
的中。
「やらしいなぁ千歳は」
声をあげて笑う白石の足を蹴飛ばして千歳は歩き出した。
「なんやねんて〜なんで先にいってまうの〜?一緒に帰ろうや〜千歳ぇ〜」
「せ、せからしか!」



桜が舞うある日の午後。


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ちょっといつもと違った風味の蔵ちとにしてみました。なにこれ恥ずかしい!とってもしゅうちぷれいでございます。いつもと違ってあとがきとか長く書けません!これにてどろん!











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