溶け合う二人の約束
「千歳、俺でエエの?」
隣で横になる千歳の髪に触れながら泣きそうな顔で金太郎は千歳に尋ねた。千歳はどうしてこの状態でそんなことを聞くのか分からず瞬きをする。
「同情、とかちゃう?」
きっと熱に浮かされた夜を経て、ふと冷静になって言い様のない不安にかられたのだろう。好きだからこそ、想いが通じあったからこその不安。それは千歳も五年前に感じた気持ち。よく分かる。
「同情でケツは貸さんね」
「わ、ワイは真剣なんや!」
場を和ませようとにへらと笑って答えたら、逆に逆鱗に触れてしまった。しまった、と肩を竦めたが、頬が柔らかく緩むのを抑えられない。
「何で笑てんねん千歳!」
「すまんね。ワイ、てやっぱり金ちゃんぽか」
金太郎はしまったと言うように顔を赤く染め、直ぐに枕に顔を埋める。
「どぎゃんしたと?」
耳まで真っ赤にしている金太郎の背中に触れると、蚊の鳴くような細い声が返ってきた。
「ワイって…なんか…めっちゃガキっぽいやん」
あの約束のせいできっとこうやって背伸びを続けてきたのだろう。申し訳ないと思いつつも、さっきまでここで自分を翻弄していた人物とは思えないぐらい可愛くて可愛くて仕方がない。金太郎がうつ伏せになっていてくれて良かったと思った。
「…むぞらしか」
そして思わず出てしまった言葉に金太郎が飛び起きる。
「そ、それがいやなんや!中学ん時から何万回言われてると思うてんねん!だからはよ…はよ大人になろう思て…!」
金太郎の動きが止まった。
「千歳?」
ゆっくりと千歳の頬に触れる。そこで千歳は涙が溢れていることに気が付いた。
ああ、
なんて愛しいんだろう。
「金ちゃん」
見たことのない千歳の様子に動揺と次に続く言葉への不安で金太郎は押し潰されそうだった。早く、でもゆっくり。矛盾を祈るしかできない。
「愛しとるばい」
ありがとうとごめんなさいと金太郎を想う気持ちを信じられないほど綺麗に紡いだその言葉に、動けなくなってしまう。千歳は微笑みながら啄む様な軽いキスを落とした。金太郎は手を伸ばし、力任せに千歳を抱きしめた。
「ワイも、愛しとる」
二人の言葉、体温が元から一つだったかの様に溶け合ってゆく。きっともう離れることは出来ないだろう。
絶対に守らない。
きっと守ってもらえない。
そう思って交わされた約束は、今、果たされた。
END
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