雑音をすべて消してください



白石の言葉、謙也の言葉、そして金太郎の言葉が千歳の頭を反芻し続ける。皆を傷付ける覚悟はちゃんとしていたのに、こうやって囚われ続けているのは、その覚悟が半端なものだったのだろう。自責の念に顔を歪めた。
作品に没頭しよう。それで全てを忘れよう。これで良かったんだ。千歳はそう自分に言い聞かせ、玄関のドアを開ける。

「千歳…!」

その声と姿に千歳は我が目を疑った。耳鳴りがする。

「金、ちゃん?」

「千歳、会いにきたで」

千歳は夢や幻じゃないことをやっと理解すると思わずドアを閉めようとしてしまう。しかし金太郎は体を挟み込み、しっかりと千歳の片腕を掴んだ。

「逃がさへん」

強い瞳が千歳を捕らえ、ごくりと喉が鳴る。あんな態度をとって、あんな言葉をぶつけ、傷付けたのに、何故金太郎はまだ自分に固執するのだ。

「もう終わったこったい」

「千歳が五年前のことなかったことにするんならそれでもええ」

金太郎は千歳をあやすように優しい声で話し出した。

「俺は俺の今の気持ちを千歳に伝えるだけやで」

「金ちゃん」

「俺は千歳が好きや」耳鳴りがひどくなった。聞いてはいけないと警告音のように頭に響く。

「き、聞きたくなか」

千歳は空いている手で耳を塞ぎながら部屋の中へ逃げようとする。それを逃がすまい、と金太郎が両肩を掴み力任せに正面を向かせた。

「ワイは千歳が好きやねん!どうしようもないぐらい好きやねん!!」



五年前あの日。
真っ直ぐに自分が好きだと伝えてくれた金太郎の気持ちは本当に嬉しかった。
自分も金太郎が大好きだったから。
でも、自分の汚い気持ちは、何も知らない金太郎の綺麗な気持ちとは違いすぎで、幻滅されるのが怖くて無茶な約束を突き付けて逃げた。

五年経ってもその気持ちの整理もつかぬまま、再び金太郎は自分の前に現れた。
そしてあんなにひどいことをしたのに変わらぬ想いをぶつけてくれた。

だから、もう逃げたくない。逃げちゃいけないんだ。



「金ちゃん、」

耳鳴りのような、ノイズのような音を無視して、息を整えるようにゆっくりと名を呼んだ。金太郎は少し不安そうな顔で千歳の顔を見る。




「俺も…好きばい」




静かに零れ落ちるような小さな言葉。信じられないと言うように金太郎の目が大きく揺れた。

「ずっと、ずっと、好」

言葉は最後まで告げられることはなかった。金太郎にぎゅうっと力強く抱き締められたのだ。
千歳の肩口に顔を埋めた金太郎がワイも、と小さく言った声が聞こえてきた瞬間、


雑音が、止んだ。











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