だから全てを君に捧げよう



金太郎はベッドに横たわりながら脱け殻のように脱力していた。

「なんでなん?」

いくら聞いたとしてもプリクラの千歳は勿論答えてはくれない。もう何度目か分からないため息が宙に消えた。



千歳に「もう会えない」と言われたあの日。5年の約束を破られ、突き放されて、去っていく千歳の背中を見てるしか出来なかった自分。さっきまで傍にいたのに、手が届く距離にいたのに…悔しい気持ち、悲しい気持ち、そして行き場のない憤りに声を上げてひたすら泣いた。心配する白石にも泣きついてしまった。諦めなきゃいけないと思えば思うほど、どうしても心に凝りがあって、その度にこうやって問いかけ続けている。こんなことしててもどうしようもないのに、こうやってもう何日過ごしてしまったのだろう。春休み中で本当によかった。
もやもやした気持ちに堪らず金太郎はごろんと寝返りをうった。ふと、ベッドの隙間に何か挟まっている事に気がついた。金太郎は妙に気になってしまい、隙間に無理矢理手をねじ込んで、その小さい何かを取ろうと必死に奮闘する。

「もう、ちょ、いや…!」

人差し指で引っ掻けて、上手く中指でフォローしながら手前に引き寄せた。やっとの思いでベッドの隙間から取り出したのは黒い石のピアスだった。

「千歳のピア…ス」

思わぬものにじんわりと視界が歪んでくる。

「なんで…なくしたと思うとったのに」

このピアスは千歳にもらって大事に大事にしていたにも関わらず、自分が中学三年生の時になくしてしまったもの。

「どうして今頃出てくんねん」

シルバーの部分がくすみ、少し埃も被っている。でもそれが改めて5年の月日を思い出させた。

千歳を好きになった瞬間。

千歳を想い続けた気持ち。

そしてそれらは全部ここにある。まだ思い出じゃない。
金太郎はピアスをぎゅっと握り、目を瞑ってゆっくりと息を吐いた。自分の今したいことを考える。いや、考えることなんてない。既に答えは一つしかないのだから。

「勝ったもん勝ちや!」

金太郎は自分に渇を入れるように天井に向かって大きな声を上げた。勢い良く起き上がり、上着を持って部屋を飛び出す。

「俺の気持ち、ちゃんと伝えてへん」

五年前の告白に寄りかかるのではなく、今の自分で、自分の言葉でちゃんと言おう。決して後悔しないように真っ正面から全てをぶつけて。

千歳。

千歳。

「このままなんて絶対嫌や」



千歳に会いたい。











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