いつもと違うきみだったから



鈍い音が響いた。倒れ込んだ千歳の頬がみるみるうちに赤く染まってゆく。口の中に鉄の味が広がった。

「ちょ!白石!話し合う言うて来たんやろ!あかんて!!」

謙也が慌てて二人の間に止めにはいる。でも白石は激情に染まった目で千歳だけを射抜いた。

「分かっとるわ!だからちゃんと左手で殴ったやろ!」

「そんな妙なところで理性的になんなや」

「金ちゃんのこと考えたら、これぐらいですむだけありがたいと思いぃ!」

謙也が何か言おうとすると、いつの間にか立ち上がっていた千歳がそれを止める。

「謙也よかよ。これで済むならめっけもんたい」

その言葉に白石の拳がまた振り上げられる。謙也が白石の腕を抑えた。謙也の腕の中で白石は暴れながら怒りに顔を歪ませる。

「なんやねん!お前、そんなに偉いんか!五年間の金ちゃんの真っ直ぐな気持ち、なんやと思うてんねん!」

「金ちゃんとはもう会わんね」

「千歳!」

「それが答えたい。言いたいこつがそれだけなら二人とも帰りなっせ」

今にも千歳に飛びかかりそうな白石に謙也はゆっくりと首を降った。白石は目を瞑って懸命に息を整え、もう千歳の方は一切見ずに踵を返した。謙也は小さくため息を吐く。

「なあ千歳、俺言うたよな?千歳の気持ちはどうなんやって」

「…」

「もし自分が悪者になればええとか、そんなんで悪者演じとるなら、エゴもええとこや。そんなんで自分被害者面するんやないで…ホンマに傷ついてるのは金ちゃんやで」

分かってる、と言いたかった。でもそれを言ってしまうのもまたエゴだから。謙也の優しくて厳しい言葉に千歳は自分の言葉を飲み込んだ。

「謙也も帰りなっせ」

そう絞り出すと千歳は背中を向けてしまった。















あのゴンタクレが神妙な顔つきで話があるて言うから、ふざけて「好きな子でもできたんか?」と聞いたら戸惑ったように小さく頷いて、次いで千歳が好きだと打ち明けられた。
今度は俺が戸惑う番やった。
千歳が好き?
千歳?
男やろ?
金ちゃんは初めての感情に半ばパニック状態で、俺は自分を落ち着かせながら必死に宥める。「どないしたいん金ちゃんは」と聞くと暫く黙って、徐々に溢れてくる涙を我慢しながら「迷惑かもしれへんけど、千歳にこの気持ち知ってもらいたい」そう言った。感極まって零れ落ちた涙と、同じように溢れ出した千歳への純粋な気持ちに胸を打たれてしまう。
男が好きだとかどうとか関係あらへん。
俺は戸惑いながらも勇気を持って進もうとしている金ちゃんを助けてあげたいと思った。

そう、どんなことがあっても絶対に、絶対に金ちゃんの味方でいようと固く決心した。











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