気紛れなんかじゃないと言って



「千歳、最近高校生くん来ないな」

同じ専攻の子に声をかけられて、千歳は苦笑した。

「後輩なんやろ?」

「中学の時の後輩ばい」

「わざわざ大学まで来るなんて、なんかええな〜お前のこと大好きなんやな!」

千歳は当たり障りのない笑顔を返して、友人に気づかれないように目を伏せた。

















日は落ちて辺りには既に星が輝いている。金太郎は縁石の上でバランスを取りながら楽しそうに歩いていた。その横顔に千歳は目を細める。金太郎と会うことは本当に楽しかった。楽しくて楽しくて、だから、余計に苦しくて。

「千歳、今度はどこ行こうか?俺な、行きたい」

金太郎が笑顔で話しかけると、隣にいたはずの千歳がいない。振り返ると千歳は少し後ろで足を止めてこちらを見ていた。

「どないしたん千歳?」

「金ちゃん、ここでバイバイしなっせ」

「なんで?ええよ、千歳ん家まで送るで」

金太郎はまだ一緒におりたいし、と続けた。千歳は首を振る。

「千歳?」

「もう会えんばい」

その言葉に金太郎は全てを理解した。理解せざるえなかった。言い様のない感情に総毛立つ。

「それが!」

金太郎は思わず声を荒げてしまった。しかしすぐに口を紡いで自分を落ち着かせるように二三度深く息をした。

「それが五年前の返事なん千歳?」

千歳は何も答えない。何も答えることが出来なかった。ぐらぐらと足元が揺らいで立っているだけで精一杯だったから。金太郎の表情も、自分の表情も分からないぐらい薄暗くて良かった。

「何で今更言うんや!だったらなんで会ったりすんねん!ワイのこと嫌いなら最初に嫌い言えばええやろ!千歳!聞いとるんか千歳!」

金太郎の悲鳴に似た叫び声。千歳は辛くてやっと動いた足で即座に踵を返した。それでも声を上げ続けた金太郎の耳に、遠ざかる千歳の足音だけがやけに響いた。

















話題はいつの間にか金太郎から別の事に移っていた。しばらくして友人の携帯が鳴り、陶芸室から出ていってしまった。ドアが閉まると千歳は深くため息を吐いた。
「きっともう来んね」
千歳は目の前のろくろにある器に触れる。先程出来たばかりだからまだ柔らかい。出来上がったはずなのに形が定まらないことがこんなにも悲しいなんて。
「すまんね金ちゃん」
視界が歪む。ぽろぽろと涙が溢れてきて千歳は堪らずろくろに両手をついて項垂れた。ぐしゃりと器がその形を失ってしまった。











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