きみは笑顔ではぐらかした



千歳は店に入り待ち合わせをした人物を探した。あの派手な髪の色なら直ぐに見つかるはずだときょろきょろとしたが、一向に見当たらない。確かにもう着いていると連絡が来ていたのに。仕方なく諦めて携帯を取り出そうとすると、

「千歳、ここやここ!」

立ち上がって、手を大きく振ってくれた姿が視界の端に入った。

「なんね、そこにおったと謙也」

千歳は安堵に笑みを浮かべて席に向かう。不機嫌そうにストローを噛み、肘をついた謙也の正面に座った。

「お前な、また金髪で探したやろ、いい加減なれろや」

「難しか話ばい。謙也はずっと金髪じゃったから、なかなか慣れんとよ」

たく、しゃーないな、と口に出したほど気にしていない様子で謙也は笑う。

「それで、急に呼び出した訳はなんや?珍しいやないか」

切り出すタイミングを見計らっていた千歳に、それに気づいたのか気づいてないのか謙也は軽い口調で切り出した。こういうところは相変わらずで心地が良い。

「金ちゃんが来たと」

「金ちゃん?金ちゃんがどないし…」

謙也はそこで何が思い出したように手で口を押さえた。信じられないように二三度瞬きをして頭を抱えた。

「卒業式の、あれか」

千歳は小さく頷く。そう、これが普通の反応。こちらから話を振らなければ思い出さない、中学の頃の小さな思い出だったはずなのだ。少なくとも千歳や金太郎以外にとっては。

「…そういう話は白石の方が適任やろ」

「ばってん、白石はあっち側たい。こげん話は出来なか」

「あ〜確かにそうやけどな…千歳、この件に関して俺は自分の方に問題あると思うで」

軽く俯いた千歳の顔に長めの前髪がかかり、表情が伺えない。千歳は自分の言葉に何を考えているのだろう。分からないがそれでも謙也は続けた。

「あんな、千歳の気持ちはどうなんや?俺は金ちゃんの味方するわけやないけど、こうなる前に、五年前にちゃんと決着つけれたんちゃうか?少なくともあの時の金ちゃんは真っ向勝負やったやろ?」

胸が痛い。でも謙也の言葉は優しく自分に溶けていく。しばらく俯いていた千歳はゆっくりと顔を上げた。そしてにっこりと笑う。

「やっぱり謙也に話をして正解っちゃ。ありがとう」

千歳は伝票を持って立ち上がった。

「千歳?」

返事の代わりに向けられたその笑顔はあまりに曖昧で、千歳にどんな答えが出たのか謙也には全く検討がつかなかった。店から出て小さくなっていく千歳の背中を見ながら、どうか良い方向に向かう様に願わずにはいられなかった。











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