パッションフルーツのかほり




千歳が部室に入ったとき、白石の表情が一瞬で絶望の色に染まる。顔は真っ青になり、目はこれでもかと言うほど開かれ、唇はわなわなと震えていた。もうそれは隣の謙也がマジで漏らすぐらいの迫力だった。
「う、浮気か死なすぞ!」
次いで白石から出た言葉はそれだった。一氏のまねだと思った千歳はけたけたと笑う。しかし、あまりの形相に隣にいた謙也は冗談ではないと慌てて突っ込みをいれた。
「いやいやいや!ちょおまて白石!浮気も何も付き合うてないやろお前ら!」
「あかん…千歳から昨日とはちゃう香りが…甘い甘いパッションフルーツ系なんて…女性の香りやないか…独り暮らしやからってあれか、「千歳くん、今日うちの旦那おらへんの」な隣の奥さんか?栄養バランス一切考えてへん買い物を心配して私が作りますよと声をかけてきたスーパーのレジのバイトの女子大生か、それとも切羽詰まってお小遣い稼ぎにおっさんと…なんやその乱れた性生活!俺かてそないなチャンスあるんなら郵便局にあるお年玉とかおろしてくるわ!」
「か、帰ってこい白石!最後のおっさんとからへんから特に可笑しいやろ!」
最後には嗚咽を漏らしながら泣き崩れる白石に謙也はドン引きながらも必死で突っ込んだ。ぞんざいに扱って明日ノート見せてもらえないと困るから。
「変な匂いばしよっと?」
「や、俺には至って普通の匂いしかせえへんのやけど…」
白石がな、と謙也はおもっきり哀れんだ目で白石を見て首をかしげた。
「おはよーさん!」
バン、と勢いよくドアが開き、金太郎がにこにこと入ってくる。
「金ちゃんおはよ」
千歳が金太郎の頭を撫でると、金太郎がきょとんとした顔を千歳に向けた。
「どぎゃんしたと?」
しゃがみこんで難しい顔をしている金太郎の顔をを覗き込む。金太郎は何かに気がついたように千歳をぎゅうっと抱き締めた。
「せや!今日の千歳は飴ちゃんみたいな匂いがするんや!」
千歳の首筋に顔を埋めてくんくんと匂いを嗅ぐ。
「甘くてええにおい〜」
金太郎が千歳の首筋に顔をすりすりとすると、千歳が恥ずかしそうに笑いながら身を捩った。
「金ちゃんやめぇ…くすぐったか」
金太郎の登場で場の雰囲気が和んだと謙也は胸を撫で下ろした。と、思ったのは一瞬で隣から強烈な歯軋りが聞こえた。地を這うような恐ろしい、それは恐ろしい歯軋りだった。あかん、と思った謙也は金太郎を止めようと立ち上がる。
「ほら、金ちゃん、もうや」

「っん!」

その一声で空気は一気に氷河期へと突入した。金太郎は千歳の首筋から離れ、舌を出しぺっぺっとしている。
「なんや、匂いだけで千歳は全然甘くないんやな」
「金ちゃん、痛か…」
千歳が擦ってる首筋にはくっきり金太郎の歯形が付いてしまっていた。そして、何かのリミットブレイクする音がした。
「金ちゃん…」
「あ、白石おはよーさん!」
ゆらりと立ち上がった白石は左手に巻かれた包帯を外し始める。
「え?なんで?なんで毒手なん?わ、わい悪いことなんもしてないで!」
「人のもんに手ぇ出したらあかんいうとるやろぉぉぉぉ!」
白石が地面を蹴るのと同時に野性的反射神経で金太郎も駆け出した。いつもならそこで終わるのだが今日はそうはいかない。あっと言う間に見えなくなってしまった二人に謙也はため息を吐いた。

「や、だから千歳は別に白石のもんじゃないやろ」





――――――――――
実際にいつもと違うシャンプーとかで千歳が来たときの惨劇。白石壊すのが楽しくて仕方ないとかはここだけの話。白石は二択しかなくて好きな子にはいい人で終わるかキモいで終わるかな気がします。どうでもいいですが、金ちゃんは情事の時、無駄にかみかみしてきそうですよね。











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