ちぎれた繋がりの点滴 | ナノ



「…やっぱり、駄目だ」
「何?」
「御剣、ぼくはお前に話すわけにはいかない」
「何故、だ」
「…出ていけ」
「ま、待て!どういう」
「出ていけって言ってるの」

狩魔冥が何者かに殴られたと聞いてから、ぼくは犯人が何を望むのかが分かった。御剣に寄せられたという金属板の貼りついた封筒にも意味があって、ぼくを精神的に追い詰めてきたことにも意味があって。そしてそれが結ぶのは只一つの答え。
それを御剣に明かすわけにはいかない。諦めの悪いコイツはどうせ、少年マンガでいう無茶なことをして死ぬタイプだ。
腕に繋がる無数の点滴を、ショックを隠しきれない御剣の前でちぎるように抜いて見せる。

「何を…」
「ナースコールは駄目だよ」
「ふ、ふざけるな!貴様は…貴様は時間はかかっても全て話すと言ったではないか!」
「もう一度言うよ、出ていけ」

勢いよく引き抜かれた針が、ぼくの血を吐きだしてベッドの脇に垂れた。血の気の引いた御剣の顔、唇をわなわなと震わせまるで泣いているかの如く硬直している。
ごめんね、御剣…ぼくは只、君を守りたいだけなんだよ。
その言葉は出てはならない、と喉が締め付けられるような感覚。もう、終わりだ。ぼくが不注意で誘拐された時から、ぼくたちの幸せな関係は終わったんだ。

「…それが君の答えなのか」
「………」
「分かった、もう…終わりなのだな」

注射後の傷口から溢れてくる血は、この見晴らしのいい病室の窓から差し込む日の光にきらめいてとてもとてもきれいで、ただ、俯いたぼくの耳に遠ざかっていく足音とドアの音が聞こえた事がなければ。

こうして泣くことも無かった。





ひっそりとした深夜、消灯済みの病室から抜け出す。
暗いながらも目を凝らせば何とか白い壁が見えた。

「ごめんね、真宵ちゃん」

ごめんなさい千尋さん、ゴドー検事。事務所は十分に継げませんでした。
ごめん、イトノコ刑事、狩魔冥。ぼくのせいで傷つけてしまった。
…さようなら、御剣…本当の別れだ。

「成歩堂弁護士」
「こんな病院でも入ってこれるんだね」
「…分かって頂けたようですね」
「御剣には…手を出さないでくれ」

ええ、分かりました。と、黒いマスクをつけた男は言った。
真犯人である事は承知の上だ。向こうが自ら証明しにきたのだから。

「では、行きましょうか」
「…ええ」

脱出の痕跡が分からないよう細工をして、ぼくは犯人と共に消えた。



弁護士誘拐事件 編集…警察庁捜査官

狩魔冥の様態
打ち所がよく、外傷もほとんど無し
※緊急データ
入院中の成歩堂弁護士が病室から消失。
更に詳しい調査を要する。