べんごしとけんじと | ナノ



世の中の全てが怖い、と自分で自覚するにはそう簡単なことではなかった。確かに隣に誰かがいなければ、妙な喪失感に襲われていたのは事実だったけれど。だからと言って病的な何かを予感するには情報が少なすぎた。僕はぼくは、多分。いや、確実に。
この男がいなければどうにかなる。

「どうして、」
「他の人に重ねていたのだろう」
「…そうか、そうだよね」

あるいは真宵ちゃんに、あるいは対面した検事に。
ぼくはずるかった。
この男が失踪したとき、ぼくが何故生きて弁護ができていたのか。
誘拐事件の時はおそらく、大の大人が霊媒師の小さな少女にさえも、ぼくは。

「ぼく、も」
『死を選びたい』
「だめだ」
「………」
「お前は私を裏切るのか」
「…ごめんなさい」
「それでいい、お前は私を」
「ごめん、ごめん」


もうもどれない、と思った。
ぼくは、うらぎられた男に、いぞ
んしてしまった。もう、離れられない。自覚した今は何もかももう無理
だ。
ぼくがこの男にいいようにされているのは。
誘導尋問まがいのことをされているのはわかっ
ていたけれど、
ぼくはべんごしで君は検事で、もうなにもかんがえられなくって、されるがままにキスをした。
絡む舌が生気を擦っていくようだ。
胸糞悪い、おわりかたと気付き方はすべてこの男には予想出来ていたに違いがない


「好きだ、成歩堂」
「……おかしいや…」
「愛している」




もう、ほんとうに、ぼくは、そとのせかいと、
隔離
されてしまった