狂った固定概念に | ナノ



「みつるぎ」
「何だ?」
「…話す」
「そうか」
「記者だった…全員」
「やはりな」
「ぼくはなにもできなかった」
「何を見たんだ」
「…それはまだ」
「そうか」


糸鋸と冥はある事件を調査していた。
ここ最近、ジャーナリストが次々行方不明になっている。初めは女性記者、そこから数十人…世間には公表していないが、警察は何らかの意図があっての誘拐事件という名目で調査員がまわされていた。成歩堂の件も犯人が捕まった訳ではない。当事者で謎の証言をする成歩堂に問い詰める事はできない。精神状態が危ない、と診断されたからである。
御剣の努力で、成歩堂が幽閉されていた場所に数十名の記者がバラバラの状態で落下してきた、ということが判明した。そこに成歩堂誘拐事件の接点を見つけた二人は、自主的に調査に乗り出したのだが。

「で。成歩堂龍一の状態はどうなの」
「まだ十分に回復していないッス。今回の情報…死体まみれの部屋だったッスが、その後の記憶がまだ回復していないみたいッス」
「先が思いやられるわね」

なんの恨みも無く、すでに習慣と化してしまった糸鋸への鞭のフルコースをお見舞いして、冥は警察の資料を眺めた。誘拐されたと考えられている、週刊誌で一度見た事のあるような記者達の名前のリスト。ぱったりと途絶えた消息を容易には見つけられない。ただの推測だが、もしこの誘拐が二か月前の有罪判決に関わっているとすれば、何故今更記者達を誘拐する必要があったのだろうか。また、どうして御剣だけ、親友で事件には何の関わりもない成歩堂を先に誘拐したのか。リスクが比較的少ない御剣誘拐の方が手っ取り早いはずなのに。推測であろうと犯人の読めない行動に冥は頭を抱えた。
自らが焦っている事は重々承知であったが、冥は簡単には引き下がれない理由があった。それは御剣や狩魔に関係する事ではなく、個人の問題で。
そんなことが腹の中でぐるぐる渦巻いた状態であった冥は、自身に近づく何かに気づくはずもなく。糸鋸は冥の鞭でのびていて。

「困りますね、可愛い検事さん」
「なっ…!?」






「冥が…何者かに殴られただと?」
「情報か何か掴んだのか!」
「まて糸鋸刑事!切るんじゃない!切るんじゃ…」

「ああやっぱりそうだったのか」
「君の狙いは…」
「…なんだね。だからぼくにあんなことをさせたのか」

「許さない…御剣玲侍検事…残るは…お前だけ、だ」
「忘れた訳じゃないだろうな…あの事件」
「お前だけは許さない…全てを巻き込んでやる」

「分かったわ…何もかも」
「成歩堂龍一、貴方はどうしてそんなに、」
「私と違って、つよいのかしら」